崩れた後に残るものは...虚しさ以外に何かありますか?
BALANCE GAME
......私、もう何が何だか分からない。頭の中はこれ以上ないってくらい、たくさん考えなきゃいけないことがあって、もう爆発しそうな勢い。...いっそ爆発してくれた方が楽かもしんない。
何もかも全部跡形もなく消してしまいたい。全部が無理と言うのなら、せめて私の気持ちだけでも消してほしい。
もう苦しいのは......嫌なんだもの。私のせいで苦しむ人を見るのも......もう嫌なの
私のせいで苦しむ人とは誰かというと勿論、周ちゃん、そして......英二
「.........俺を、こんな気持ちにさせないで」
「..........」
つらそうに、私に何かを訴えるような声で英二は言った。私の顔を自分に胸に押し付けて......
かお
英二の腕の中にいる私には、英二の表情は分からない。ドクンと聞こえてくる英二の鼓動の音は聞こえるけれど。顔をあげて涙でぐちゃぐちゃになった顔も見られたくないし...英二の辛そうな顔を見て、ちゃんと言葉をかけてあげられるか自信がなかったから顔をあげられなかったの。
だから、俯き黙って英二の手が解かれるのを待つしかない。...強い力、それでも小刻みに震える手を解くことができるほど私は強くないということもあるけれど、今英二をこんな気持ちにした人は...私だからね。たぶんじゃなくて、絶対。
それに、英二のいう『こんな気持ち』も分からない自分が情けなくなってくる。原因は私の言葉や行動だということは分かってるから。でも、私...情けないけど英二に何をしてしまったのか...分からない。
それは思い当たる節がないからではなく、思い当たる節がありすぎてどれが英二を『こんな気持ち』にさせてしまったか分からないという意味で。
..........どうしよう。私、知らないことがありすぎて知ることが怖くなってきたよ。もう...涙の源も乾ききってしまったよ。
長い長い沈黙のを破ったのは、英二が私の名前を呼ぶ声。同時に手も外される。
「......」
「な、何?」
「ごめんな」
「え.....?」
「俺、の気持ちを無視したよな...。本当に...ごめん」
「何で、英二が謝るの?謝らなきゃいけないのは.....」
紛れもなくこの私だよ。
英二......そんなことないよ。英二は私の気持ちを無視してるんじゃなくて、私の気持ちをよく考えてくれてるんだよ。1人で泣かないで、と優しい言葉をかけてくれる。傍にいてくれる。それらが何よりの証拠だよ?
英二は私のことをすごく考えてくれてる、大事にしてくれてる。だけど....私は?
英二に辛い思いをさせてばっかりで、それなのに英二の力のカケラにすらなれないなんて。英二をこんな気持ちにしてる今でも、英二に頼ってばかりで。...甘えてばかりで。
そんな自分の弱さが嫌になってくる。嫌になる、言い換えて自己嫌悪に陥ってみても、何も現状は変わらないことから自分の無力さがはっきりとした。認めたくもないけれど、認めざるを負えないくらい私は弱いという事実も同時にくっきりと見えてきた。たとえを使うのなら、水の形が分かるようになってきた。これを聞いて、は?
と思う人はたくさんいると思う。だって、水には形がないからね。...もっと具体的に言ってみるね
つかみ所のない水は凍って氷になって固まり、そして.....冷たいけれどつかめるようになった。形が見えてきたんだ。
「ごめん。私こそ...ごめんね。英二」
「...」
「私、本当にみんなに甘えてばっかりだね。情けない.....」
「そんなことない。っていうか、何でそんな自分を責めるような言い方するの?は何も...悪くないよ」
「英二は優しいから、そんな言葉を言ってくれるんだね。でも...私....」
「.........自分を責めずにはいられないよ」
ごめん。本当にごめん。謝ることしか出来なくて、本当にごめん。
「え、おい!!!!」
私は教室から飛び出した。自分が何故こんな行動を起こしたわけは、定かではない。でも...もう耐えられなかった。
申し訳なさそうな顔で謝る英二。どう考えても英二は悪くない、私の気持ちを無視したことはない。何も英二が英二を責める理由なんてどこを探してもないのに。それなのに、英二は自分を責める。理由もなく英二は自分を責め、私に優しくしてくれた。英二は、本当に優しい人。私なんかより、きっと幸せになるべき人。
それなのに自分勝手すぎだと思うもう、本当に嫌。こんな自分。
無力、分かってるよ。
自分勝手、それも知ってる。悲劇のヒロインぶってるんじゃない、そんなつもりはないけれど観客から見たらそうかもしれない。
それでも私
そんな英二の優しさが痛くて、その痛みに耐えられるほど私は我慢強くなかったの...。
「..........やっぱ、体力ないなー...私。...」
教室を飛び出した足で、とにかく走っていた私。でも、もともと体力を所持してないから少し走っただけでも、息切れしてしまう。もっと体力をつけなきゃなぁと今更思うけれど、疲れて呼吸の乱れが荒いのは事実。
私は走る足から歩く足へとモードチェンジして、速度を落とす。何でこんな変哲もない廊下を歩いてるのかは分からないけれど、とりあえず足の思うまま動かしていた。
そして思い出す。ぐっと身体に加えられた圧力。あの大きな手。震える声。わめく鼓動。優しい温もり
...........涙はもう出ない。枯れきってしまって、もう出るものも出ないから。出たほうが楽かもしれないけれど、私1人が楽するのもおかしな話だから......っていうより、私は今まで楽をしすぎだった
苦労といったらおかしいけれど、もっと『何か』を残すんだった
手遅れにならないうちに................
「.............あ.....れ......?」
ぴたりと動く足が完全に止まる。誰かがスイッチを消してしまったんだろう。.............しまった。もう手遅れだった。
やっぱり私はどこか抜けている。昔から、みんなとテンポ1つ分ずれているの直ってなかったんだ。
「....っ、!いきなりどこへ行くんだよ?やっと..見つけ...た」
「...............」
「?」
後ろから、さっき教室に残してきた英二の声が聞こえる。そして、肩をぐいっとつかまれる。.......だけど、もうその痛みは何も感じない。何も考えられない。
その理由はというと目の前で起こってる光景にある
その光景とは.....
と周ちゃんの.........キスシーン
「........やっぱり、そうだったんだね」
ヤバイ
俺は今その言葉で頭の中が埋め尽くされている。少し、どうしようという言葉が混じっているくらい。それくらい俺は焦っていた。そして、後悔という気持ちすら覚えた。
つい数分前には自分の腕の中にいた。最もが望んだわけではない。俺のへの想いが溢れる一方で、それを抑えきれず思わず泣いているを抱きしめた。細い身体、掴むことが難しいほどサラサラな髪...掠れる声。全てを受け止める自信はないけれど、それでも受け止めたかった。ほっとくことなんてできなかったんだ。....守ってやりたいと思った。の感情を無視して、そう思ったんだ。
が自分を受け止めて欲しいと思う男は、俺じゃないと分かってるのに。それでも、この願いが叶う少ない可能性に期待してしまう自分が浅はかだと思う。
もっと現実を見なきゃいけない。
今、この状況を考えてみろよ。俺
その光景を目の前にしているの気持ちを...考えてやれよ。俺
何で、あの時を腕から放したんだよ?鳥のように何処かへ飛び去ってしまって、行く宛もないから彷徨い続けること.........心のどこかで知ってたんだろ?誤魔化すな、俺
ゲームを見極めろよ
「え......?」
「あ......」
ゆっくりとの肩を掴む手を放した瞬間、目の前にいる2人が俺たちの方に振り返る。きっと、の声が二人の耳に届いたんだろう。あちらも少し驚いている顔をしていることから、かなり驚いているんだだと思う。
と不二はあまり驚いたような表情を顔に出さない、それを出すということはすごく驚いていることを意味するから...。まぁ、俺とも2人の接近しすぎた行動を見て驚いているから、どっちもどっちって感じかな。
そして、ゆっくりが口を開く
「......英二......」
その声を聞いて、はっと我に返る。それからすぐに隣にいるを見た。普段とあまり変わらない顔、だけど口をきゅっと閉めて何かを我慢しているよう。もっと下に視線を向けると....手がかすかに震えていた。それでも、瞳は真っ直ぐに2人を捉えていて....
今の気持ちはきっと、俺がに不二が好きだと相談されたときの気持ちによく似ているかもしれない。いや...同じかもしれない。だからこそ、よくその辛さが分かる。その辛さから救ってあげたい、取り除いてあげたいと心からそう思う。でも...ダメなんだ。俺じゃ。気持ちはの問題だし、取り除いてやれる男も....俺じゃない。
.......見守ることしか出来ないなんて、嫌だよ?マジで
「。もう大丈夫?英二も......ありがとね」
「.......」
「.............?」
「あ、ほら。周助もボーっとしてないで、英二呼びに来たんでしょう?」
「....そうだけど....」
気まずい雰囲気の中、が普段と変わらない雰囲気で俺たちに話し掛ける。にも不二にも、そして俺にも。正直、が何故こんな平然として俺たちに話し掛けられるのかよく分からなかった。のことだから、今の状況を分かってるはずなんだけど....。そう思っている俺は、返事をしそびれてしまった。
も俺と同じく無言。それでも、は今度は不二に話し掛ける。不二は、少し間をおいて返事。だけど、気まずい雰囲気は何も変わらない。はを見て、不二を見て、俺を見て、それからも黙り込む。...もしかして、はこの気まずい雰囲気を変えようとしてたのかな?で、どう話し掛けても変わらないから、諦めて黙ったのかな?
答えは、今こんな状況でに聞けないから、分からないけれど....俺たちはもしかして、もしかしなくてももう...崩れている最中なのだろうか?
そんな中また1人、口を開く。開いたのは.....だった。
「やっぱり、私前より直感良くなったよ...」
「何で...?さっきも言ってたけど...」
「だって、分かったもん。.....初恋は実らないってこと」
「何...それ...え、?何言ってるのよ?」
「もういいの!!!!」
さっき涙を流しながら漏らした言葉をもう一度はまた言った。さっきは分からなかったけど、今ならその言葉の意味が分かる気がする。同時に......あの時の不二の心情も分かった気がする。
俺は、それを確認すべく残酷な行為『何で?』と聞いてしまった。言ってから、ばっと思わず口を塞いだけれどもう後の祭り。はぽつりと呟く。哀しい言葉を。
『初恋は実らない』確かにそう言うけれどそれが100%確実だとは絶対言えないし、がんばり次第で実るんだよ?うん、でもは確かにがんばってた。不二の趣味である写真を、自分の手でとって共通の話題を作ったりして......たしな..。
今のの言葉はそのがんばりを諦めることを意味する。諦めないで?っていうより、は....不二のことを諦めきれる気持ちで想い続けてたわけじゃないだろう?
そして、その言葉を聞いたと不二。不二は、曖昧な表情をして黙り込む。不二は勘の鋭い奴だから.......もしかして今の気持ちに気付いたのだろうか?
で、はというと目を大きく見開いて、じっとを見る。そして、信じられないというかのようにゆっくりとかすかに口を開く。の近くまで寄り、の方へと手を伸ばした......
その時、目を疑うようなことが起こった。
そのの手を....が払いのけた....。いつでも、優しかったが今は何だか違う。驚きを隠せないをよそに、は聞いたことのないくらい大きな声を出した。冷たい声。その表情は怒っているのではない....これは悲しさからきた表情だ。
悲しくて、でもその悲しさを押さえ切れなくて、爆発させてしまう。爆発しても、その悲しみのカケラを掃除することの方が大変だというのに.....。それでも、は掃除することの方を選ぶんだね
「..........っ、教えてくれてもいいじゃない....」
...............君は何を教えて欲しかった?俺たちに
教えて欲しいものが分からないと.....俺たちも教えられないよ
最も俺の方が知らないことだらけかもだけど
俺は沈黙の中そう思った
静かで、それでも何かが入り混じった苦痛の声。それを残して、は走り去っていった。追おうかと思ったけれど...足が動かない。足が動かない理由も分からないけれど、足が動こうとしない。自分の足なのにいうこと聞かないなんて...無性に腹が立つ。でも、動かないっていうことは自分が一番知っているから....無理に動かそうとするのをやめた。
そして、目を向ける。不二との方へ。は払いのけられた手を見つめ、そしてぐっと握りこぶしを作ってその手を下ろした。で、ふと俺と目が合い、にっこりと笑った。どうしてかは分からないくらいいつものにかっとした笑顔。それから、こう言った。
「あ、英二。ご苦労様。ありがとね」
「......何で、ありがと?」
「の辛さを和らげてくれて、ね。ま、最もあたしがまたあのコを辛くさせちゃったけど...」
「.....」
「そうだ。あたし、化学の先生にプリントもらいに行かなくちゃ。んじゃ、また明日ね。英二、周助」
そう言うの笑顔の裏に込められた気持ちが知りたい、俺はそう思ったけれどの仮面が外れる気配は全くと言っていいほどない。俺と不二に手を振って、そして向ける後ろ姿は...強いような弱いような曖昧な姿。強いと見える理由は、やはり足取りがしっかりしているからで。
弱いと見える理由は...やっぱり一層華奢なが余計に細く見えるからで....。追いかけたいけれど、それを拒否するオーラが出ているように思えたから追えなかったけど、それでもその後ろ姿が印象的で.....言葉を失ってしまう。
その間に、1人、また1人と減っていって
最後には.....俺1人取り残される気がするよ
「.......英二」
「え、あ、何?不二」
「手塚が...呼んでる」
「手塚?なんだよ、アイツー。俺に課題やりに行けって言ったのにさ」
「.....うん、じゃあ先行くから」
.......気がするだけじゃなくて、事実だったみたいだ
ふいっと俺の顔を見ようともせず、すれ違うようにして去っていった不二。俺もを見習って普段と同じようにしたはずなのに.......失敗したみたいだ。違う、失敗だ。スタスタと歩いていく不二の姿を後ろに、俺は....今なんか複雑な気持ちだ。
それは、何故かって?
今、こんな寂しい廊下に1人取り残されてしまったからかな?
それとも...みんなの声が余韻だけになってしまったからかな?
ジェンガが完璧に崩れてしまったからなのかな?
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