ついに崩れる時が来たのかも......しれない
BALANCE GAME
あたしは.......強い。周助の言葉に惑わされるほどあたしは生易しくないし、傷つけられるほどやわじゃない。だから、あたしは大丈夫。まだ自分の気持ちだけなら我慢できるもん。
ただ、周助の言葉の意味の重みを実感してしまったのが、痛いところだけど.....でも自分の言ったことだから気にしないようにする。目に付かないように意識する。んで、そういうことからあたしが何を言いたいのかっていうと、とにかくあたしはまだ大丈夫だってこと。だって、強いもん。だから1人で大丈夫。
あたしはあたしであたしのことをやれる自信があるよ。
それよりも心配っていうか、考えなきゃいけないのは教室に残してきたと英二のことだ。あたしは今、教室を出て足の向くままに廊下を歩いてる最中なんだけど......ああ、やっぱり2人にするのは不味かったかなぁなんて少し後悔という気持ちを抱いてるかもしんない。でも....あそこで邪魔なのはあたしだもんね。
英二にとって.....って最近、あたし英二のことばっかり応援してる気がするなぁ.....。のこともちゃんと応援しなきゃいけない....よね。それは分かってるんだけど、ゴメン、。やりにくいわ、何か。だって、周助はどこまで本気かどうかわかんないけど、あたしのことを好きだといってくるし。それに、会ったら会ったでいつもあたしのしてることにケチをつけてくるもん。........それプラス何考えてんのかわかんないし..。
まぁ、それはそれとして。最近、あたしは思うことがある。
「それはない.......とは言い切れない」
「........俺、やっぱが好きだ」
「............私...少し直感が良くなったよ。きっと。」
何かって言うと、それは....あたしを除く3人の中で何かが変わりつつあるんじゃないかってことだって、そうでしょ?そうじゃないと、こんな言葉言わないじゃない。
周助が、今のあたしたちのバランスを壊したいような言葉を言うわけないじゃない?
英二が、もう知ってるあたしに改めてそう断言することってないじゃない。あ、いやこれはあるかもしんないけど、それでも何かがなきゃ言わないじゃない?
が、涙を流しながらそんなことを言う訳ないじゃない。だって、ひどい言い方するけどあの子は超がつくほど鈍感なのよ。そんながそんなことを言うなんて...何かあったに間違いないじゃん。
.........みんな、あたしを取り残してそれぞれの心の中の革命を起こしたんだよね。きっとあたし1人を置いて、みんな....変わりたいと思ったのかどうかは分からないけれど、変わろうとしているんだろうね。それは意識的かもしれない、無意識かもしれない......でも、変わろうとしていることには違いはないんだ。
あたしが1人ぽつんと取り残されたことも.....違いない。あたしとみんなの間に白線が引かれたんだ。こっちはあたし1人、向こうにはや周助、英二がいる。
.........さて、取り残されたあたしはどうしたらよいだろうか?
あたしの中では答えは決まってる
あたしはあたしでいるんだ
例え1人でも平気だもの
「.......?」
「あれ、周助じゃん。どうしたの?」
先ほどあたしは廊下を足の赴くまま歩いてると言った。本当にあたしは足の赴くまま歩いていた。....そしたら、前方によく知ってる人の姿が目に入った。その姿を見て、あーという言葉になりきれない気持ちとなんてタイミングがいいんだろうと思う気持ちが湧き出てくる。
茶色のさらさらした髪は風もないのに靡いているように見え、羨ましいくらい引き締まった細い足の足どりは力強い。あたしのことを見て、少し目をあけてそれから目を細める彼はご存知不二周助。彼はあたしの質問に丁寧に答えてくれた。
「僕は英二を呼びに来ただけ。それより、の方がどうしたの?」
「あー...今、英二お取り込み中だから邪魔しないでやってくれる?」
「そう.....でも、僕が答えてほしいのはそっちじゃないんだ」
「はいはい、そうだと思った。別にあたしはどうもこうもしてないよ」
「嘘だよね」
「......何で嘘つかなきゃいけないのさ?何のメリットも無いじゃん」
「もういいよ。もういいから.....もうやめてよ」
「何がよ?言っとくけど、あたしはこの前に言ったことはねじ曲げないからね!」
「.....気付いてないの??」
「だから、ちゃんと言葉で言ってくれなきゃ分かんないってば!!」
ったく、本当になんなの?周助は...何が言いたいのよ?
『嘘だよね』――嘘なんかじゃないよ。どうもこうもしてない、からあたしには革命が起こんないんじゃないの。あたしの言うこと間違ってる?
『もういいよ。』――何がもういいのよ?
『もうやめてよ。』――だーかーら、ちゃんと言葉で言ってくれなきゃわかんないってば。アンタはあたしの何が気に入らないの?
『気付いてないの?』―――だから、何が。あたしは何に気付いてないって言うの?
「もう、強がるの......やめなよ。....泣くの堪えないでよ」
今、の言葉が頭の中で何度も何度も繰り返されている。......そうだよ、の言うとおり
強いもの
は自分の守り方を知らない
本当は心の中では守って欲しいと叫んでいるはずなのに、その叫び声を押しつぶしてしまっている。.......何故僕はそれに早く気付かなかったんだろう?確かに彼女は強い、強いけれど....それでも強さだけが彼女の中に潜んでいるわけではない。強さだけを持ち合わせている人間はいないんだよ。
それは目の前にいる彼女にも言えることだ。僕は今まで彼女の心は固いダイヤモンドのようだと思い込んでいた。いくら叩いても、全然輝きの鮮度が落ちることは無かったから。だけど...違う。違ったんだ、本当は。そのダイヤモンドは中心部の脆い部分を覆い庇っていただけに過ぎなかったんだ
「はっ、何言ってるのよ。あたしが強がってるって?あたしが泣くの堪えてるって?んなわけないじゃん。そんなこと。」
だけど、彼女はそれでも必死に輝こうとする。精一杯、そのダイヤモンドが一番美しく見える角度を見せようとしている。.....そんなことしなくても、十分綺麗なのに。
外見的に言えば、ふっと笑みをもらす。僕が馬鹿げたことを言ってると言わんばかりに、は笑う。ただ、笑う。泣くのを堪えてるはずなのに、それでも笑う。どうして笑えるのと聞きたいくらい、は笑う。
...............だから、これが強がりっていうことに気付かないのかな。は
......ってことは、もしかして
「....気付くのが怖いの?」
「だっかっらっ、さっきから周助は何が言いたいのよ?」
「逃げてるんだ?」
「..........よく聞きなよ。周助」
「.....いきなり怖い声になったね、どうしたの?もしかして図星?」
「いいから聞いて」
気付くのが怖い。自分はただ強がってるだけだってことに......。逃げ出してる。気付きたくもなく目を塞いで、遠ざかりたいと....。でも、それって当たり前のことなんじゃないのかな?怖いものを見て逃げ出したくなるのも、気付いたら何かが壊れそうだから気付きたくないと思うのも...
きっと当たり前のこと。だから、別に...いいと思うんだ。僕は。今のにとってその言葉はかなり残酷なものだけど...けどこれで弱さを見せてくれるのなら、これで固いダイヤモンドの殻を少しでもやわらかくしてくれるのなら、と期待してしまう。だから言ってしまうんだ。
........だけど、現実はそう甘くない。
だって、のダイヤモンドの殻は......固くなることしかしようとしない
「あたしはね。強がってんじゃなくて強いの」
「あたしには『今』が崩れるより怖いと思うことは何も無い」
「ってか逃げてたら、見逃しちゃうじゃない。この一瞬を」
「あたしが涙を堪えてたとしても、その涙を誰にも見せるつもりは無い。堪え続けるよ」
「もっとも涙が出るほどあたしは潤ってないんだ」
女とは思えない力でグイっと胸倉を掴まれ引き寄せられたかと思うと、目の前にはの顔があった。の瞳の奥では何かが燃えているよう、だが燃えているのに感じるのは冷たさだ。
静かな声にも何かが混じっている。『何か』とは怒りか?それとも悲しみか?もしくは.........拒絶か?それは分からない....もしくは全部が入ってるんじゃないだろうか?
答えはもちろん僕は知ることはできない。きっと彼女もそれは無意識だろうと思うから。
.........ああ、本当に僕は.......
「......僕は..君に近づくことができないんだね」
「どういう意味?」
「僕にはの心の中に入れないんだね、ってこと」
「当たり前。ってか、あたしの心の中には誰にも入れないもん」
「.......もっと力を抜いたら?」
「力を抜くのは余計なことまで抜いてしまいそうだから嫌」
「楽だよ?」
「楽になったらなんか得する?」
今の状況をもっと広い視野から見てみると、外観的には僕のほうが有利だ。未だに胸倉を掴まれているが、やはり男と女の力の差は必ずあるから。そりゃ、も女子の中では力のあるほうだけど....
僕だって、だてにテニスをやってないよ。ちゃんとそのおかげで力には少しなら自信がある。の震える手、それでも込められた力を強い手を剥がそうとするのは容易いことだろう。
でも、それでも僕がそうできないのは内観的に見ると、僕は不利だ。それは知ってのとおり、僕の心は弱いから。いくらの中にも脆い部分があると分かったとはいえ、僕にはそれを守る固い殻はない。
...........それに、僕は楽になりたいと願うのには....違うんだね。は........それでも強くあろうとするんだね。
............それなら、もう偽りでいいよ。嘘でも何でもいい
だから、今近くにいる実感を......頂戴
が僕の胸倉を離すつもりはないのなら....それでいいよ。その代わりもっと僕に引き寄せてみせるから。そして、もっともっと......近くにいくよ?
そう思いだしたら、もう最後。僕の手は動き出した。
僕の右手をぐっとを僕の方に近づけるために動かし、左手はというとの顔を僕の方に向けさせる為に使われる道具。僕の心臓が持つギリギリまで、僕も顔を持っていく。
そしたら......君は、僕に何を言う?
「な、何!びっくりするじゃん!?」
「.......驚きのほかには何にもないの?」
「別に何も無いけど」
彼女が最初に示したのは驚き。きっと、予想外だったんだろう。だけど......本当にそれだけ?他のものは何もないの?.....何かあるだろう?もっと違うもの.......怖いと思う気持ちとか嫌だと思う気持ちとか....。
でも、彼女は何も無いと言い切った。平然と、声色も何も変えずに。僕の顔を見て真っ直ぐと言い切った。......状況が飲み込めてないのか?それとも......本当に平気なのか?
それなら僕は答えが分かる。答えは、きっと
「......もしかして、あたしが怖いとか思うって言いたいの?それとも、嫌だとか?」
後者だ。
「........」
「そうね。アンタと英二以外の男だったらそう思ってるかもね。怖くは無いけど嫌だって」
「.....どうして?」
「だって、周助は.....これ以上あたしに近づかないもん」
「その根拠?」
「ない」
「........ないのに、よく言えるね」
「根拠が無くても、あたしと周助の付き合いは長いことには変わり無いじゃん?」
.............もう敵わない。近くにもいけない。
そう思った僕は、手をから離す。は「ほら、見なさい。」と鼻高々な調子で僕に言ってのけ、ふっと少し笑みをもらした。「....ってかもうそろそろいいよ。英二のとこに行っても。」という言葉も繋ぐことまでもやってのける。僕はそれに黙ることで対応するしか、できなかった。けれども、はそんなことを気にしていないみたい。ほら、今だってまだ1人で喋ってるよ。......全く。
まぁ、近づくことを諦めたわけじゃないけれど、時と場合ってものがあるんだ。で、今はそんな時じゃない。そんな場合でもないから......もう、できない。
後味の悪いことをしてしまった自分を責めることしか出来ないよ
「........やっぱり、そうだったんだね」
「え......?」
「あ......」
それでも、その声の方に振り向いた。も同じく振り向いた。その声の主は?
そこにいるのは......誰かって?
「......英二......」
の言葉のとおり、と英二。その2人がそこに立っていた
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