それを信じるくらいなら、あたしは明日地球が滅亡しますよという何ともノストラダムスの大予言的なことを信じるとここで断言しよう。確かに明後日には大好きなアーティストのCDが発売されるし、明々後日は友達と映画を見に行く予定で、その次の日は創立記念日で学校は休みで家でゆっくりできるし、そのまた次の日には駅前のカフェでケーキセットが半額の日だったりして楽しいことが今からいっぱい待っているわけだけど、あたしが犯してしまった事実をもし消すことが可能であればその楽しみなことを喜んで捧げよう。例えそのせいで抜き打ちテストが最悪だとか、傘持ってきてないのにどしゃ降りにあったりとか、隣の隣の隣のそのまた隣のめちゃくちゃいかつくて怖い犬に追いかけられると不幸続きでも構わない。構わないからどうかあたしの過ちをなかったことにしてもらいたい。人間やらない後悔をするよりもやった後悔をする方がいいって聞くけど、嘘だよ。そんなの。やらない方が後悔しなかったよ。やってしまって後悔の雨嵐、もっと言えばカトリーナ並のハリケーンだよ、全く。ありえない、信じたくないのダブルパンチを喰らうのは自業自得だ。ああ、本当あたしって馬鹿


つい勢いで切原にキスしてしまったなんて


...あ、誤解しないでね。別に寝込みを襲うとかそんなんじゃないからね。ちゃんと切原は起きてました。...それはそれで問題かもしれないけど、いやでもね。そもそも切原が数学の課題を教えてくれとかいうからあたしは見たい再放送のテレビがあったのにも関わらずそれを我慢して承諾して放課後残って切原の課題を見てあげてたのに、切原が突然何を思ったのか分からないけどあたしに喧嘩を売るように「お前、キスしたことないだろ?」とか言って馬鹿にしてきたのが悪いのよ。確かにあたしはそれまでキスは誰ともしたことないけど。だって年齢=彼氏いない歴なんだから当たり前じゃない。そもそもあるわけないっつーの。それなのに切原ってば前の彼女とはこういうシチュエーションでしたとか嫌味みたいに言うのよ。それからあたしを可哀想な奴と哀れんだように見てくるの。これムカツクくない?ムカツクくないですか?いや、明らかムカツクでしょ?だから言ってやった。別にキスなんて多くすればいいってもんじゃないでしょって。至極正当なことをあたしは言ったのにも関わらず切原は負け惜しみだとか言ってまたケラケラ笑いだした。死ねとか思ったね、本気で。で、挙句の果てに悔しかったら俺にキスの1つくらいかましてみろよとかほざくからかましてやったわけだ。切原の胸倉を掴んで引き寄せるようにして。もちろん一瞬だよ、唇が触れたの。うわ、人の唇ってこんなに柔らかいんだ...ってそうじゃない。そうじゃないよ、あたし。そうじゃなくてとその瞬間ふっとんでいた理性が急にただいまーと帰ってきてしまって、掴んでた胸倉を逆に押し返すようにして切原からすぐに離れたけどね。その時の切原の驚いたような顔は今でも腹を抱えて笑えるくらい笑える。それは一泡吹かせてやったと気分が良かったけど、よくよく考えてみれば自分は何をしてしまったんだと。しかも何か急にドキドキしてきて、あれ...あたしおかしい。何で切原の挑発を真に受けてしまったわけ?ヤバイ、どうしよう。とんでもないことをしちゃったよと思わず切原を置いて逃げたというのが昨日の放課後のお話



「んで、昨日のは何だったんだよ?」



そしてその日の次の日の至福の時間、つまり今日の昼休みにいきなり切原に屋上に連れて来られて昨日のことを問い詰められている。どうしてこんな時に限って屋上に人がいないんだろう。助けも呼べないし、気まずすぎる。逃げようと思っても後ろは壁で前には切原、そして切原は壁に手をあてることによってあたしの左右の逃げ場所をなくすので逃げることははっきり言って不可能だし、何よりもいつもより切原との距離が近くてさらに拍車をかけて気まずいんですけど。しかも昨日のは何だったんだよ、って聞かれてもつい勢いでやっちゃっただけで別に特に深い意味はないのではっきりと答えられない。なぁ、そう切原に急かされても答えられないものは答えられないんだってば。切原と目を合わせることができるわけがなく、やや下のほうに視線を向けながらあたしは黙り込む。三度目の催促にも無言を貫き通したあたしにいらいらしたのか、切原はあたしの顔を強引に上に向けたので、自然と切原と視線が交わってしまった。もう少し丁寧に扱ってくれてもいいじゃないと思ったけど...そんなに真っ直ぐで真剣な瞳で見られたら言えるわけないじゃない。ていうか、どうしたの?何でアンタがそんなに真剣になるわけ?いつものように馬鹿でマヌケな表情をしなさいよ。そうじゃないと調子が狂うじゃないの。それに切原の手ってこんなに大きくて優しいものだったなんて知らなかった。いつもの切原の手はあたしの頭を殴ったり、髪をぐしゃぐしゃにする憎たらしいものだったけど今は全然そう思えない。切原の温度ってこんなにも心地良いと感じてしまうものなの?



「なあ、答えろよ」



それに加えてこんなに近くで切原の顔を見たことがなかった気がする。今まで別にどこにでもいる普通の少しムカツク男子としかあたしは認識しておらず、それでも女の子から黄色い声があがるほどの人気さにどこがカッコイイのと首を傾げていたんだけど今ならそれも分かる。切原はあたしが思っていた以上に間近で見るとカッコよかった。そりゃ女の子もコイツのことをカッコイイとキャーキャー言うわけだ。あたし、今まで一体切原の何を見てきたのだろう。切原ってこんなに睫毛が長かったっけ?こんなに肌が綺麗だっけ?こんなに真っ直ぐで真剣な瞳をできたっけ?


あたしが今まで見てきた切原は一体何だったの?



「もしかして、....お前俺のこと好きなんだろ?」
「なっ!何でそうなるのよっ馬鹿!ジイシキカジョーなんじゃないの?!」



今までずっと黙秘権を行使してきたあたしだが、口元を少し上げて切原が言った言葉にはさすがに言い返さずにはいられなかった。何でそうなるのよ。切原のことが好きなわけないじゃない。そりゃさっきは不本意ながらカッコイイなとか思ってしまったけど、それとこれとは話が別。あたしは切原よりももっと紳士的で優しい人を好きになりたい。自惚れるなという目でキッと睨みつけるようにして切原を見たら、何だか余裕の笑みを浮かべていたので悔しかった。かなりむかつくんですけど。何、そういうことにしといてやろう的な引き方。そういうことじゃないから。地球が引っくり返ってもありえないから



「......ていうか、切原こそあたしのこと好きなんでしょ?」



あまりにむかついたのであたしも仕返しだと言わんばかりに余裕の笑みを浮かべてみせた。自分でも結構上手く出来たと思う。もちろん冗談だけれども、切原を上から見下ろしたくてわざと。案の定、切原は驚いたように目を丸くしてて、昨日のマヌケ顔と重なりかなり笑えてきて。答えられない切原を見ているのは正直気分が良くて、今ならもっと反撃できるような気がしてあたしはもっと何かを言ってやろうと口を開いたが、急にまた切原が真剣な顔つきになったので思わず閉じてしまった



「ああ、そうだよ。だから昨日のは何だったのか気になるんだろーが」



今度はあたしが驚く番だった。冗談で言ったつもりなのに肯定されるとは夢にも思っていなかった。え、じゃあ切原はあたしのことが好きなわけ?だから昨日のが何だったのか気になるだなんて、それは自分勝手な意見でしょう。あたしは知らない。だって知らなかったもん。切原があたしのことが好きなんて。うわ、何かそう肯定されると告白されたみたいでドキドキする。切原相手なのに。何で切原相手にドキドキしなきゃいけないの。っていうか、何か切原の顔が近づいてくるような気がするのは気のせいですか?いやいや、気のせいじゃない。明らかに近づいてきてる。え、何。もしかしてキスされる?この至近距離は間違いなくそういう系ですよね。えええええどうしよう。切原の息がかかるくらいに近づいてきてるんだけど。どうしよう、思いっきり切原を突き飛ばすべき?ああもうとりあえず目を瞑っちゃえ



「...ばーか、何本気にしてんだよ」



いくら目を瞑って待っていてもあんなに至近距離にあった切原の唇があたしの唇に触れることはなく、切原の罵声に瞑っていた目を開けて見てみると、切原は勝ち誇ったように笑っていたので自分が遊ばれていたことに気づく。ひどい、乙女をこんな風にからかうなんてほんと最低。っていうかあたしのドキドキを返してよ。無駄だったじゃないの、どうしてくれんのよ、この馬鹿切原。...あれ、ちょっと待って。あたし、ドキドキしたとはいえ切原のことが好きじゃないよね?まさか、そんなことないよね。


.........嘘だよね?


訳が分からないというもどかしさとやられたという敗北感と期待させやがってという憤りが混ざりながら込み上げてきたあたしは勢いに任せて切原を殴ろうと手をグーにして振りかざす。しかしその手がいとも簡単に受け止められてしまって、認めるのは癪だがどうしても切原には敵わないらしい



「やっぱりお前、俺のこと好きだろ?」



あたし、さっきはどうやってこの言葉を否定したっけ?





ビビッドピンクな恋をした


( やばいよ。地球が引っくり返っちゃうかも...! )