理想の喧嘩の仲直りの仕方といえば...うん、やっぱりアレがいい。この前金曜ロードショーでやってた洋画みたいなの。具体的に言えば喧嘩をした後彼女が1人で泣いてるところに彼氏がやって来て薔薇の花束を差し出して仲直りをする、みたいな。それのどこが理想なのって聞きたくなるかもだけど、その時彼氏が言った言葉がすごく素敵で。『僕達はまた喧嘩をするかもしれない。そして、僕はまた君を泣かせてしまうかもしれない。だけどそしたら僕は君が流した涙より多くの薔薇を君に送って愛を誓うよ』...ね、素敵じゃない?余談だけどその言葉を言った外人の男の人がすごくカッコよすぎてね(名前は分からないけれど)ベタすぎる、って引く人もいるかもしれないけれど、あたしは逆にベタな方がいいな。男の人は少しくらいキザな方が素敵だと思う。少女漫画みたいな展開とか現実に起こっても大歓迎なんですけどね

でも上手くいかないわけなんです

あたしは今日彼氏と喧嘩をして今1人で屋上にて泣いてたりするわけなんだけど、彼氏が来る気配は一切ない。何にしろ今は5時間目の最中、つまりあたしは授業をサボっているからここにいるのであってあたしと違って真面目な皆は今頃教室で眠たくなる授業を受けているわけで、彼氏どころか人がやって来るわけもなく。あたしの上には真っ青な晴れ渡った空が広がっており、そこにいる太陽がいつにもなく張り切っちゃって紫外線の矢を惜しみなく射るもんだから、それをガードするべく長袖を着ていたらかなり暑い。影の中にいても暑い。何が言いたいかというと要は洋画のようなしっとりしたムードは皆無ってことです。しかも涙が面白いくらい零れるけどすぐに乾いちゃって...や、それは別にいいことか。本当、洋画の世界に入りたい。頭可笑しいとか何とでも言っちゃってください

現実をつきつけられたあたしがそもそも勘違いしていることは彼氏がここに来るはずがないということで。喧嘩、と言ってもあたしが一方的にどうしようもないことにわめいてワガママを言ってキレたと言った方が正しい。ので、彼氏は別に悪くない。ただ愛ちゃんっていう可愛い女の子と喋ってただけ、しかも会話の内容は今度の校外学習のことについてといった業務上のことで、それだけが心の狭いあたしは気に入らなかった。今思えば本当馬鹿だよね、自分。でもそれを見たあの時は嫌で嫌でたまらなくなって、愛ちゃんのことを好きになってしまうんじゃないかと考えると余計嫌になって爆発した。何で楽しそうに他の女の子と喋るわけ?あたしがいるのにって。最悪だ、自分。しかも愛ちゃんは可愛くていい子なんだよ。あたしがキレたのを知って、『そんなつもりじゃなかったの、ごめんね』って謝ってくれるくらい優しくていい子なの。本当自分って最悪。愛ちゃんは1つも悪いことをしていない、悪いのはあたしの心の狭さなんだ

と、自覚したにも関わらず性格上素直に言えなくて、だけど同じ教室にいることが苦痛でここにやってきたわけです、ハイ。もしかしたら追いかけてきてくれるかもしれないと期待をしてしまったあたしは馬鹿でどこまで現実から逃げてるんだろうと思い知らされる。追いかけてきてくれるはずがないのに。ああ、やっぱりあたしは自分に甘いなあ。どうして都合のいい解釈ばかりしちゃうんだろう。馬鹿だ馬鹿だ馬鹿だ馬鹿だ、何回言っても足りないや。...あ、また涙が出てきた。ダメだな、あたし。ていうか今絶対目がヤバイ、マスカラとアイラインが絶対えげつないことになってるとあれだけ泣いておいて今更思うのは本当馬鹿な証拠だよね。ああ、いっそのこともっと泣いてアイラインとマスカラ落としちゃおうかな。もう素に戻っちゃおうかな。だってもともとアイライン引いてなかったもん、マスカラで睫毛を伸ばすとかしてなかったもん。やろうと思ったのは少しでも彼氏に可愛く見せたいからで、彼氏と喧嘩した今では意味がない。せっかく最近リキッドで上手くアイラインを引けるようになったのにな。...まあどうせ気づいてないだろうけど。まあいいや。もう泣いちゃおう。ラクダじゃなくてパンダになっちゃおう


「......いつまで泣いてんだよ」


あたし、泣くって決めたの。泣くのはあたしの勝手でしょう。もうほっといてよ。...って、あれ、あたしにそんなことを言うのは誰?と思って顔を上げてみれば。あれ何でここにいるの?そう驚いてしまう自分が意味分からない。だって、あたしはさっきまで期待をしていたでしょう?

それなのに何で目の前に亮がいることに対してこんなに驚いてるの、あたし


「...な、んで」
「何でじゃねーだろ」
「授業は?」
「お前が言うな。あーもう気になって保健室行くって嘘ついてきたんだよ!」


しかしいつの間に亮は屋上にやってきたんだろう。古びたドアが開いた音にも全然気づかなかった。あたしの疑問にすぐ返事を返しながら、亮はあたしに一歩一歩近づいてくる。それにしても口調が荒いということは亮はまだ怒ってるってことなのだろうかと考えつつ、亮と視線を合わせようとしたら自然に顔が上がる。亮はあたしを見下ろすようにして見て、それから盛大なため息をついてからいきなりあたしと目線を合わせるようにしてしゃがんだ


「そしたら泣いてるし」


やっぱり口調が乱暴なので怒ってるんだと思いながら、あたしはごめんなさいと謝罪の一つや二つくらい口にしようとしたが、そんな間さえくれず亮はあたしの目辺りを袖でごしごしと乱雑に擦ってきた。痛い、もっと優しくしてくれてもいいんじゃないの?っていうか目が本当黒くなっちゃうってとこんな時でさえ自己中なことを思ってる自分に怒りを通り越して呆れる


「俺が悪かったからもう泣くな。な?」


でも、亮はそんなあたしに優しくしてくれる。亮は悪くないのに謝ってくれる。あたしの頭を優しく撫でてくれてる。心配そうにしてくれてる。そうだよ、亮って優しいんだってことはあたしが一番知ってたはずじゃない。あまり言葉に出さないタイプだけど、それでもいつだってあたしに優しかった。それを忘れてた自分が本当に情けなく思えて余計涙が溢れてきた


「泣くなって言ってるのに何で泣くんだよ」
「...ご、ごめん」


これ以上亮を困らせたくないのに、どうして涙が溢れるんだろう。あたしの天邪鬼。もう涙の出番はいいよ。さっきまで涙を見せつけてやりたかったけれど、今は逆に見せたくない。止まれ、涙。涙よ、止まれ。ワガママばかり言うあたしだけどこのお願いだけはどうか聞いて。あたしは泣くのを止めて、亮に謝らなければいかないの。言わなきゃいけないの。悪いのは亮じゃなくてあたしの方だよって。今なら亮は許してくれる気がするの


「......


その時ふわりと何だかいい匂いがして、涙を一粒蹴落として何だろうとよく見てみたら、亮が差し出す手には一輪の黄色い花が握られていて。この花どこから持ってきたんだろう、っていうかどうして亮が持ってるんだろうと思い亮を見てみると亮は少しだけ顔を赤くしてあたしから目線を外す。...ねえ、これってもしかして


「仲直りしようぜ」


...もしかして亮は知ってたの?あたしがあの洋画みたいな仲直りの仕方が素敵だと思ってたことを。や、でも亮が知ってるはずはない。だって亮には言ったことないもん、そういうこと。どうして知ってるの?...いや、それよりも何だかすごく幸せだ。涙でなくしたものがもう一度生まれてきたよ。あの男の人が持ってた薔薇の花束じゃなくて黄色い花一輪だけど、あんな洋画みたいなしっとりしたムードはないけれど、あたしにとっては最高のワンシーン


「ありがとう、亮。......大好き」


ガバッと抱きついたあたしに「知ってる」と答えた亮の腕の中にいたら気分はあの洋画のヒロイン、だけどヒロインよりもきっと幸せなんだろうなと本気で思った



ロマンティックハニーに花束を




「このお花どこから持ってきたの?」
「跡部がもらった花束から拝借してきた」
「えー」
「つーかお前目の周りヤバくね?」
「半分亮のせいだかんね」







( はいはい、責任取ればいいんだろ? )