「ねぇ、行かないの?」



先ほどから鬱陶しいほど降ってくる太陽の光を免れるべく、木陰に避難していたあたしの方にたたっと駆け寄ってきて、そう言った男の名前は芥川慈朗。あたしと同じクラスでテニス部の男だ。はっきり言うと正直あたしはこの男が苦手である。別に本人に何か嫌なことされたとかそんなありきたりな理由なんかではない。あたしはこの男が太陽のように思えるのだ。それのどこが理由なんだと問われるかもしれないが、芥川慈朗という男の太陽と同じ金色の髪だとか眩しい笑顔とか周りにいる人達を元気にさせるような性格だとか...とにかく苦手だった。だから同じクラスだけど挨拶程度で全然喋ったことないし、まさかこの男がこっちに来てあたしに話し掛けてくるとは夢にも思っていなかった



「どこへ」
「あっち」



あたしが尋ねると、芥川は指差す。実は今体育祭の予行練習の真っ最中だったりするわけで、芥川の指が差す方を辿ってみれば、本番ではないのにも関わらず盛り上がっている生徒達の集団が見えたりするのであって。元々日の当たりすぎるあそこにいるのが嫌でそこから少し離れた木の下にいるんだからとあたしは行かないとそっけない返事をする。芥川はふーんと言っただけで、あたしの隣に腰を下ろした



「ねぇ、ってさ。一人でいたいタイプ?」
「別にそんなんじゃないよ。ただ日焼けするのが嫌なだけ」



そっかぁと芥川は小さく笑う。そういえば芥川をこんなに近くで見たのは初めてかもしれない。瞳が大きいだとか睫毛が長いこととか幼い顔立ちなのに綺麗だとか今初めて知ったこと。見れば見るほど整った横顔に目が釘付けになる。そんな感じであまりにあたしがじっと見つめすぎたからか、芥川はあたしの視線に気づき、あたしの方を向く。それから少し首を傾げたのを見て、あたしは咄嗟に視線を外した。沈黙が流れる。それを気遣ってくれたのか、芥川が話を切り出す



って運動会何出るの?」
「棒引き」
「マジで」
「どういう意味よ」



いや、がそんな競技出るとは思わなかったから。芥川はそう素直に答える。あたしだって本当は棒引きだなんてやりたくないけど決まったものは仕方ないじゃない。じゃあ、何だったら出そう?と尋ねてみると、芥川は少し考えてから言った



「...リレー?」
「何で疑問形なの」
「だって、めんどくさいとか言って何もやらなさそうだもん」



何て率直な意見なんだろうか。この言葉であたしは芥川に何事に対してもやる気がない女だと思われていることが発覚した。いや、それは事実なんだけどそんなに態度に出してたっけって話。一応顔には出さないようにしていたんだけどな、そう思いながら「そうだね」と返事をしておいた。芥川慈朗の言葉は何故か嫌味に聞こえないから不思議だ



「そういえば俺達って挨拶以外会話したことないよね」
「気づくの遅いよ」



思い出したように芥川が言ったのに対して間髪入れずあたしは返す。だよね、そうまた小さく笑う芥川の横顔をまた見つめている自分に気づき、慌てて視線を反らしたことが気づかれてないといい



「でも、俺。のこと見てたから、結構知ってるよ」



ああ、今分かった気がする。あたしが芥川が苦手だと思うのはこういうトコだ。別に深い意味はないんだろうが、あっさりとそんな言葉を口にするから。球の種類で言うならストレート。あまりに直球すぎてどう受け止めたらいいのか分からない。とりあえず軽く流しておこうと決めた



「...へー。例えば何?」



そう聞いても、芥川は困った顔をしない。口だけじゃないってこと?ちょっと待ってよ



「んー、例えば...白とか黒の持ち物が多いとか」



確かにあたしは白と黒が好きだから自然と持ち物が白と黒になっちゃってるけど



「音楽ではロックが好き、とか」



確かに音楽の中ではロックが好きで、あたしのアイポッドにはロック系がたくさん入ってるけど



「最近ケータイ変えたとか」



確かにもう1年半使ったからもう変え時だなと思って最近ケータイを変えたけど



「......あと、俺のことが苦手だとか」



どうして芥川がそんなこと知ってるの?

しかも何でバレてんの、あたしが芥川が苦手だってこと。もしかして見た目は子供、頭脳は大人的な感じのヤツ?...いや、ちょっと違うけど、あたしが言いたいのは幼い顔をしてる割には結構侮れない瞳をしてるじゃないかということだ。あたしを試すような言い方、挑戦するような目...もう鼻からあたしが答えられないのを分かってる。案の定沈黙を肯定ととった芥川は「やっぱりね」と笑った。だけど、と繋げる



「俺はともっと仲良くなりたいな」



直球すぎる。仲良くなりたいだなんて...ああ、もうストレートすぎる。どうしてさらりと言っちゃうのかな、そんなこと。心の中ではあーもうと叫んでいるけど、顔には出さずポーカーフェイスで「そう」とだけ短い返事をするあたしに「そうだよ」とさらに強調する芥川が本当苦手だ。もしかして分かっててやってるのか。もしわざとだったらある意味すごいよ。無意識でもすごいことには変わりないけれど



「だから、のこと名前で呼んでいい?」



芥川があたしにそう聞いてきた。別にいいよ、と答えれば...ありがとう、だって。嬉しそうに笑ってありがとうって。...何が嬉しいのか分からない。あたしのことを名前で呼べるようになることがそんなに嬉しいことなの?ああ、もう意味分かんない。とにかくそんな嬉しそうに笑わないでよ。不覚にもドキッとしてしまったじゃないの



、そろそろ行こう」



そう言って芥川は先に自分が立ち上がり、そして手を掴んであたしを立たせる。小さい身体と不釣合いな力に驚きながら、自分の名前ってこんなにくすぐったく聞こえるものなの、いや何かの間違いだよねと自問自答してたら、影から出てしまった。先ほど逃れた太陽がまたあたしに襲い掛かる。光が痛い、それから眩しすぎる。あたしは小さな疑問を飲み込んで、目の前で輝く金色に目を細めた





目障りなほど輝くゴールド
眩しいのは太陽、それともあたしの手を引っ張る男?





( ...っていうか、あたし。ドキッとしたって一体何 )