似合ってると思ったんだ。あの人が青空だとしたらあのコは太陽だから。あの人と一緒にいるあのコは本当に光を放ってるみたいで、あの人も曇りなく笑ってる。お互いがお互いを引き立てあう、そんな2人はとてもお似合いだ
似合ってないと思ったんだ。あの人が青空だとしたらあたしは花火だから。あの人と一緒にいるあたしは一瞬だけの幸せが捨て切れなくて、あの人はそれすら光で覆って目立たなくする。お互いがお互いを消しあうこんな2人はとても不似合いだ
分かってた。そんなのとっくに分かってた
青 空 花 火
似合わないのは分かってる。おかしいって分かってる
「あー...もうありえない...」
あたしの声だけが響く屋上。どうやら授業をサボる不真面目な生徒はあたしだけしかいないみたいだ。あたしの言葉に反応してくれる人もなく、あたしはため息をつく。そしてそのまま体を後ろに倒して仰向けになって寝転がる。背中から伝わるコンクリートの生温さが何故か気持ちよかった
目の前には青空が広がっている。果てない青に映える白、それが無性に腹立たしかった。そこに太陽なんか何も知らないで光を放っているからさらに憎く思う。太陽なんて大嫌い。太陽がないと生物は生きることが出来ないとか言うけど、それでも気に食わない。太陽があるから空がこんなにも青くて明るいんだ
「......あのバカ」
青空と太陽がまぶしすぎるのであたしは目を閉じる。瞼は光を遮ってはくれないが気休めにはなった。すうと息を吸うといつもより綺麗な空気が身体を満たす。ああ、なんて。なんてあたしは空っぽなんだろう。そうしみじみ思いながら、うとうとしてたそのときだった
「......え」
身体の上に何かが被せられた。あたしは目を開き、がばっと身体を起こす。被せられたのはあたしの学校のブレザーだった。でもあたしは自分のをちゃんと着ているので、あたしのじゃない
じゃあ、誰の?
「あ、すみません。起こしてしまいましたか」
今まで誰もいなかったのにいきなり声がした。驚いたように声がした方を向くと、そこにはカッターにベストを着ている彼がいた。それにさらにびっくりして思わず正座する。だって彼は大人っぽく落ち着いていて気遣いもでき、誰にでも優しく、一部では紳士と呼ばれている柳生君。あたしの学校で知らない人はいないテニス部のレギュラーで、あの人の部活仲間だ
「こんなところで寝ていたら、いくらこんなに温かくても風邪引きますよ」
ぽかんと見上げるあたしに柔らかく笑いかけ、柳生君はあたしの隣に腰を下ろす。あたしは柳生君と話したこともなく、柳生君をこんなに近くで見たことなんてもちろんないので戸惑う
どうして柳生君がここにいるんだろう?あの真面目な柳生君が授業をサボるなんて考えられない
「......想像できませんか?私がサボるのは」
「え、あの、うん、どっちかって言うと想像できない」
「皆さん、私を少し買い被りすぎてますね。私だって息抜きくらいしますよ」
柳生君はあたしの考えてることがお見通しだったようだ。とても柔らかく笑いながら冗談っぽく言う。
......あたし、柳生君のこと真面目で近寄りがたい人だと思ってて、こんなに柔らかく笑う人だとは思ってもなかった。あたしが少し笑い返してみると、彼の手があたしの方に伸びてきた。彼は柔らかい笑顔を一転し、不敵に笑う
「...なんて」
その長い指があたしの顔に触れる。そして真っ直ぐにあたしを見つめる瞳に思わず、柳生君から少し離れた。あたしが柳生君から離れた分だけ柳生君はあたしの方に近づいてきて、今度はあたしの顔を両手で包み込む。あたしは逃げ場をなくし、それに顔も動かせないので柳生君を嫌でも見なければならなくなる。......なんて整った顔立ちをしてるんだろう。綺麗すぎて鳥肌が立つ
「本当はさんがここに来るのが見えたからここに来たんですよ」
「......え...」
いきなりそんなことを言われて驚きを隠せないあたしに柳生君はまた微笑んだ。そして、右手をあたしの髪に通す。何だかくすぐったかったけれど、あたしはそれより柳生君が一体何を考えてるのか気になる。あたしが口を開こうとすると、柳生君はまたさらにあたしを引き寄せた。腰に手を回され、あたしは柳生君に抱きしめられる形となる。一瞬思考回路が途絶え、あたしは頭が真っ白になった
「あ、あの、柳生君?ちょ、離して」
柳生君の腕に込められた力は強かった。抜け出したくても抜け出せない。振りほどきたくても振りほどけなかった。正直、異性にこんなことをされたのが初めてなので戸惑いを隠せない。本当、柳生君が考えてることが読めない。全くと言っていいほど分からない。というより、こんな人だったのか。あたしの中の柳生君のイメージが変わってく
抱きしめられてしばらく沈黙が流れ、ドキドキが絶頂に来たあたしが離してと言っても柳生君は聞いてくれなかった。それどころかさらに力が増した。やっぱり男と女の力の差は歴然としている。女のあたしが男の柳生君に勝てるはずはない
あたしはもう一度離してと頼んだ。それでも柳生君は聞いてくれない。...ああ、早く腕を解いてほしい。そんな温かい腕で抱きしめられたら、もうそろそろ堪えられなくなる
「...でも私が離したら、貴女はどうせ1人で泣くのでしょう?」
柳生君はあたしの心を見透かしたように、ぽつりと零すように言う。その言葉に頭を殴られたような衝撃を受けた。...柳生君は、もう知ってるんだ。もう分かってるんだ
あたしが叶わない恋をしてること
...ああ、爽やかな青空が憎い。照りつける太陽が憎い。......だけど、一番憎いのは自分が花火だということで。ただあの人が夜空ではなく青空だったというだけ
それだけのことがこんなにも悔しい
「......気づいて、たんだ」
「そうですね。嫌でも気づかされました」
「...っ...」
込み上げる感情と共に涙が溢れてくる。何だか目が熱いと思ったら、頬に涙が一筋伝ったのが自分でも分かった。柳生君は何も言わず、あたしの顔を自分の胸に押し付け、その大きな手で何度も頭を撫でてくれた。それがとても優しく感じたから、あたしは涙を制御できない。どうして止まってくれないんだろう、涙。止まれと命令するたびにもっと涙が零れるほど出てくる。何で?どうして?だって、あたしもそう思ったじゃない
似合ってると思ったんだ。あの人が青空だとしたらあのコは太陽だから。あの人と一緒にいるあのコは本当に光を放ってるみたいで、あの人も曇りなく笑ってる。お互いがお互いを引き立てあう、そんな2人はとてもお似合いだ
似合ってないと思ったんだ。あの人が青空だとしたらあたしは花火だから。あの人と一緒にいるあたしは一瞬だけの幸せが捨て切れなくて、あの人はそれすら光で覆って目立たなくする。お互いがお互いを消しあうこんな2人はとても不似合いだ
分かってた。そんなのとっくに分かってた
「だって、私は貴女をずっと見ていたんですから」
......だけど、今だけ、縋ってもいいですか?
「......ほんと、突然..っ、だったんだもん」
「確かに私も正直驚きましたね」
「急に、そんなこと嬉しそう、に言われて...」
「そりゃ誰でも驚きますよ。...誰でも傷つきますよ」
「ほんと、ショックで。もう....っ、授業も受ける気なれなくて」
「そんな平然としていられないでしょうね」
「...どう、して、あたしはまだ好きなんだろう...っ」
あたしはそっと柳生君の背中に手を回した。柳生君は何も言わなかった。ベストがあたしの涙で湿ってしまったというのに文句一つも言わなかった。その優しさに本音が込み上げてくる
−−−−ねえ、貴方
今日、嬉しそうにあの人の口から彼女が出来たと聞かされて。あたしがどれだけ打ちのめされたか分かってる?...分かるはずもないよね。だって貴方は幸せなんだから。好きなコと付き合えることになって幸せじゃないはずがないから。気づくはずもないよね、貴方はあのコしか見てなかったから。あたしのこと見ようとしなかったから。あたしが貴方のことが好き、だなんて思いもしないでしょうね
確かに貴方はあのコとお似合いだと思うよ。可愛くて同姓のあたしから見ても本当に輝いていて太陽みたいなあのコと、大きな心を持った青空のような貴方はすごく似合ってる。それは認める、だけど
どうして貴方は青空なの?
「...その答えは私も聞きたいですよ」
柳生君はそう小さな声で呟いた。だけどこれだけ近くにいるので小さな声でもあたしの耳に入る。そんなこと言われても答えの知らないあたしはどう反応したらいいのか分からず、ただ泣き続けた。柳生君は返事がないことなんて気にしていないようで、また言葉を繋げる
「貴女が私を選べばいいのに。...そうすれば貴女は泣かずに済んだのに」
その声はどこか切なそうで、辛そうだった。もし今柳生君が辛いならば、それはあたしのせいで。こんなに優しい人を傷つけることしかできないあたし自身に腹が立つ。自分が花火だと分かっていながらどうしてこんなに青空を求めてしまうんだろう。どうして夜空を求めないんだろう。あたしって本当天邪鬼ね
「...できることなら、あたし、だって、柳生君を好きになりたい」
あの人が青空だとしたら、柳生君は間違いなく夜空だ。深く優しい藍色は花火をより美しいものと見せ、消えてもいつまでも変わらずそこにいてくれてる。だから安心して花火は輝けるんだ
−−−−ほんと、好きになった人が柳生君なら良かった
「......そう言ったら、軽い女だって軽蔑する?」
「まさか」
あの人を想う涙はまだ溢れる一方だけれど、あたしは柳生君に尋ねてみた。柳生君はすぐに答える。そして次の言葉を言った柳生君の表情は今でも分からない。ただ一つ分かったことは、柳生君はきっとこの先しばらくはあたしの夜空でいてくれる。自惚れかもしれないけど、でもそうじゃないかもしれない
「むしろ、その方が嬉しいです。だって私は今すぐにでも貴女を手に入れたいと想ってるんですから」
どうか、待ってて下さい。もうすぐで貴方の元で輝くから。一瞬でも美しく魅せるから。...だから、待ってて
夜空よ、まだ太陽を呼ばないで
あたしは貴方を求めたい
強気で優しい偽紳士じゃない柳生さんに慰められたかっただけです(コラ)あの人が誰なのかは皆さんのご想像にお任せいたします