第三訓 本当の災難は忘れた頃にやってくる
ヤバイ
男の人に気づいてあたしの頭の中に咄嗟に浮かんだのはその3文字だった。思わず身体が固まり、一瞬動きが止まったあたしの肩辺りを誰かがぐっと掴んで斜め下に圧力をかけたので身体は前へ傾き、あたしはそのまま崩れるように床に倒れこむ。床に手をついた痛みで、はっと状況が飲み込めたあたしが後ろを向くと、銀さんが伏せていて、先ほどあたしに向けられていた剣は丁度銀さんの真上にある状態だった。そこであたしを前に押しやったのは銀さんだということと、その剣を握っているのはよく見るとさっき指示を出していた黒髪の男の人であることに気づく
「銀さん!!」
「逃げるこたァねーだろ。せっかくの喧嘩だ。楽しもうや」
「オイオイ、おめーホントに役人か。よく面接通ったな。瞳孔が開いてんぞ」
銀さんは立ち上がりながら、ジョークを交えつつ男の人に向かって言う。それを聞いた男の人は少しむっとしたように眉を顰めて言い返した
「人のこと言えた義理かてめー!死んだよーな瞳ェしやがって」
「いいんだよ。いざという時はキラめくから」
あたしは立ち上がり、「逃げようかな。でも銀さん残していくのもなあ。元はといえば、あたしのせいだし」と考えている間になされるこんな会話。この状況で何て会話をしてるんだろうと思いながら、ふと何気なく横を見ると、バズーカを持った真撰組の茶髪の男の人がいて、そのバズーカの口は間違いなくこちらに向けられていた。これはマズイ
「土方さん。危ないですぜ」
「!」
「危ないっ!!銀さん!!」
その直後発された大きな爆発音に構わず、あたしは銀さんの腕を掴んで神楽ちゃん達が逃げていった方向へと走った。っていうか、うわ、煙臭いし、目が痛いんだけど!あと、後ろから「うおわァァァ!!」って声した真撰組の人ははたして大丈夫なのだろうか
「おい、。お前、何で早く逃げなかった?」
「だって、銀さんはあたしを庇って...って、え?」
銀さんがあたしに話し掛けてきたので、後ろを見ながら理由を言おうと思ったけど...え?と思わず素っ頓狂な声を出してしまった。いや、だって...なんか銀さんヤバイことになってるもん。頭が。もう天然パーマを通り越して、アフロに近いっつーか...
「...何だよ、オイ」
「銀さん、頭えらいことなってますよ」
「はあ?...って、嘘!マジでか!髪の毛、チリチリじゃねーかァァァァ!!!」
あたしの反応を見て不審に思った銀さんが尋ねてきたので、あたしが正直に答えると、銀さんはそれを聞いて、あたしに掴まれてない方の手で頭を触る。おそらくその感触に違和感があったようで(そりゃそうだろう)銀さんはありえないといった表情をしながら叫んだ
「こっちだ!銀時!...と連れ!」
「名前呼ばれないのって寂しいですね、なんか」
角を右に曲がったその時、ある部屋から桂さんがあたし達の方を見て手招きをしてこう叫ぶ。そういやまだ名乗ってなかったなと思いながら走るスピードを上げて、あたしと銀さんはその部屋になだれ込むようにして入ったのと同時に襖が閉められ、待っていましたと言わんばかりに攘夷志士の男の人達が襖の前に箪笥やらダンボールやらを置き、入り口を封鎖した
部屋の中ではすでに神楽ちゃんと新八君がいて、あたしは新八君の隣に座り、銀さんは神楽ちゃんの隣に座った。新八君は頭がパンチパーマになった銀さんを見て「髪増えてない?」と苦笑し、神楽ちゃんが銀さんの頭を「あーあ」と言いながら触っていると、襖の向こうから声が聞こえた。真撰組が襖を隔てた廊下にいるんだ
「オイッ、出てきやがれ!」
「無駄な抵抗は止めな!」
「ここは15階だ。逃げ場なんてどこにもないんだよ」
うわー、本当にピンチだよ。っていうか、いつの間に15階に来たんだろ。階段を登った記憶も必死すぎてないんですけど。でも、真撰組の言うとおりここが15階だったら確かに逃げ場なんてどこにもない。今のあたし達は袋の中の鼠だ。いくら今はこの一室の入り口を塞いでいるからといって、それを壊されたら終わり
つまり袋を開けられたらいとも容易く捕らえられてしまう
ヤバイなあと心底思いながらふと桂さんの方に目を向けると、丁度桂さんは小さなため息をついていた。それから桂さんは懐に手を突っ込んで丸い物体を取り出す
「?そりゃ何のまねだ」
「時限爆弾だ」
「え?!爆弾...ですか?」
「そうだ。ターミナル爆破のために用意していたんだが仕方あるまい。コイツをやつらにおみまいする...そのスキに皆逃げろ」
桂さんが言い終わったか終わらないうちに銀さんは桂さんの胸倉をいきなり掴んだ。その拍子に桂さんの持っていた爆弾が下にゴトっと音を立てて落ち、その銀さんの行動に攘夷志士の1人が「貴様ァ、桂さんに何をするかァァ!!」と叫ぶように言ったが、銀さんはそんなのお構いなしに桂さんを真っ直ぐ見据えて言う
「......桂ァ。もうしまいにしよーや」
そう言った時の銀さんはとても真剣で、あたしはごくりと唾を飲む。さっきも感じたんだけど、銀さんが真剣になると圧倒されるような雰囲気に飲み込まれそうになる。ちらりと見ると、新八君も真剣な様子で銀さんと桂さんを見ていて、攘夷志士の人達も桂さんに無礼を働く銀さんに手を出せず、黙ってそれを見ていた。神楽ちゃんは...って何してるの?さっき落ちた時限爆弾を拾って、何してるの?
「てめーがどんだけ手ェ汚そうと死んでった仲間は喜ばねーし、時代も変わらねェ。これ以上うす汚れんな」
「...あの、神楽ちゃん何してるの?」
「、これ押したらどうなるアルか?」
「いや、押さない方がいいと思うよ。っていうか、神楽ちゃん。空気読もうよ」
「うす汚れたのは貴様だ、銀時。時代が変わると共にふわふわと変節しおって。武士たるもの己の信じた一念を貫き通すものだ」
「じゃあ、これは?」
「いや、だから空気読もうって。そんな空気じゃないでしょ。明らかシリアスムードじゃん。ってかあー、もーいい。ちょっとあたしに貸して」
「お膳立てされた武士道貫いてどーするよ。そんなもんのためにまた大事な仲間失うつもりか」
シリアスムードをなるべくぶち壊さないように、小声で神楽ちゃんに話し掛けると、神楽ちゃんもそこは状況を察したのか、小声で返してくれた。っていうか、本当にいじくるのやめようよ。下手にいじくって作動したらヤバイし。神楽ちゃんがこのまま持ってると絶対に作動しちゃうと直感で思ったあたしは神楽ちゃんから時限爆弾を受け取ろうとしたのだが、神楽ちゃんはそれに応じない
「何でアルか?」
「いや、何でって...」
「ん?このボタンは何ネ?」
「俺ァ、もうそんなの御免だ。どうせ命張るなら俺は俺の武士道貫く。俺の美しいと思った生き方をし、俺の護りてェもん護る」
「下手に押さない方がいいと思うのね、あたし」
「ポチっとな」
「話聞いてた?神楽ちゃん」
「...あれ?何か動き出したアル」
「ええ?!」
せっかく桂さんや銀さんが真剣になって、特に銀さんなんかめちゃくちゃカッコイイ言葉言ってるのに、神楽ちゃんは本当に空気が読めないコらしくまだ時限爆弾をいじくっているので、あたしは止めさせようとしたのだが、神楽ちゃんがあるボタンを押してしまったので、時限爆弾がカチカチと音を立てて動き始めてしまったではありませんか。ほら、あたしの直感は正しかったじゃない!
「神楽ちゃん、ヤバイよ。これ、絶対作動しちゃったよ」
「銀ちゃん」
「?」
「コレ...いじくってたらスイッチ押しちゃったヨ」
神楽ちゃんは普通に失敗しちゃったと可愛らしく笑いながら頭を掻きつつ、とんでもないことをカミングアウトした。さっきまでとはまた違う空気が流れる。新八君は力なくははっと笑い、桂さんは心底驚いたような表情をし、あたしはというと冷汗をかいているのだろう。ただその中で1人、銀さんは至って冷静だった
「神楽。それこっちに渡せ」
「はい、銀ちゃん」
「おう...」
「銀さん?」
「...お前ら、一気に行くぞ」
銀さんの言葉の意味をその場にいた一同全員が理解した。銀さんは大きく空気を吸い込む
「逃げろォォォォ!!!」
銀さんの掛け声(?)を合図に新八君は持っていた木刀で、銀さんと神楽ちゃんは足で入り口を塞いでた箪笥やらダンボールやらを蹴飛ばして、入り口を開けた。あたしはその3人の後に続く(だって武器持ってないし)(そりゃ蹴破れるけど、足痛くなるし)入り口にはたくさんの真撰組がいたが、突然あたし達が部屋から出てきたのに驚いたようで、皆固まっていた
「なっ...何やってんだ。止めろォォ!!」
「止めるならこの爆弾止めてくれェ!!爆弾処理班とかさ...なんかいるだろオイ!!」
アフロになった銀さんがクワッと目を見開いて、爆弾を前に出す。その時もうすでにリミットは10秒に差し掛かっていた。その爆弾を見て、真撰組達はどよめき、それから逆に逃げていく
「おわァァァ爆弾もってんぞコイツ」
「ちょっ、待てオイぃぃぃ!!」
「銀さ..え?」
逃げた真撰組を銀さんは追いかけるように走っていったので、思わず名前を呼ぼうとしたところ肩をとんと叩かれた。何かと思って見ると、あたしの肩を叩いたのは桂さんだった
「名は何と言う?」
「え、あ、あたしの名前ですか?えっと、です。」
「...覚えておこう。今日はすまなかったな。銀時にもそう伝えといてくれ」
そう言って、少し困ったような、申し訳なさそうな、でも柔らかな表情を浮かべた桂さんを見て、こんな表情も出来るんだとあたしは思う。男の人に対してはあまり褒め言葉にならないかもしれないけど、桂さんはとても綺麗で、その手に爆弾なんて似合わない。それでも、手に持たなければならない理由があるんだね
「あ、はい。って、桂さんはどちらに?」
「俺は屋上から逃げる。今ここでアイツらに捕まるわけにはいかないのでな」
「桂さん!早く!」
「ああ...じゃあ、また会おう。」
攘夷志士の男の人に呼ばれた桂さんは、あたしにそう言い残して背を向けて走っていった。綺麗で長い髪が揺れるその背中には、目には見えないけど桂さんが感じている『使命』を背負っている。国を救う、やり方はちょっと乱暴で過激かもしれないけれど、それでもそんな大きな事を口先だけじゃなく実行しているところが素直にすごいと思えた
...って
「そんな場合じゃない!銀さん達は!?」
はた、と思い出す。そういえば銀さん達どうなったかな?無事に爆弾処理できたのかな?!そう思って銀さんが走っていった方を見ると、俄かに信じられないものが目に入ってきた
「ほあちゃアアアアア!!」
「ぬわァァァァァ!!」
神楽ちゃんが傘をバットに見立てて、銀さんという名のボールを思いっきり打っていた。いやいや、ちょっと待ってよ。神楽ちゃん!銀さん、ヤバイことなってんじゃん!
「銀さん!!」
銀さんの身体がそのまま飛ばされ、窓ガラスを突き破り、外へと放り出された...よね?ちょっとこれは何でもマジでやばいんじゃないですかと思い、ダッシュで銀さんが外に放り出された場所へと走ると、神楽ちゃんと新八君がそこにいて、あたしが2人の元に駆け寄った瞬間、大きな音がした
ドガァン
...どうやら、時限爆弾が爆発したらしい。それは荒々しい花火のようで、煙をあたりに撒き散らす。煙のせいで銀さんの姿は見えないから無事かどうか分からないけど...無事でありますように...!
「ぎっ...銀さーん!!」
「銀ちゃん、さよ〜なら〜!!」
「銀さーん!大丈夫ですかーっ?!」
あたし達3人は下を覗き込みながら、それぞれ叫ぶ。すると、次第に煙が薄くなっていき、下の様子が分かるようになってきた。前の建物の輪郭がはっきりしてきて、垂れ幕の字もちゃんと見えるようになってきたと思いきや、何と銀さんは垂れ幕にしがみついているではないですか
「...銀さん」
「良かった、無事みたいですね」
「銀ちゃんならやってくれると思ったアル」
銀さんの状況はどうであれ、頭以外は無事な銀さんを見て、あたし達はほっと安心し、胸を撫で下ろす。っていうか、本当タフな人だよね。あんな無茶な爆弾処理をして無事だなんて...本当、すごい人だと思う
「オイ」
なんて思っていたらいきなり肩に手を置かれて振り向くと、そこには真撰組の人達がずらりと勢ぞろいしていた。あたしの肩に手を置いている茶髪の男の人(確かバズーカぶっ放してた人)はにやりと性質の悪い笑みを浮かべながら言った言葉にあたしは思わず固まる
「ちょっと署まで来てもらうぜィ」
...そういや、真撰組の人達のこと忘れてた
池田屋事件はこんな感じでまとまりました(え)なんか絡ませ方は微妙ですけど、許してください。今回はとりあえず桂さんに名前を覚えてもらいたかっただけです(ぶっちゃけ)
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