第五訓 ズルしても真面目でも人間皆生きている







「ええっ、ストーカー?!」
「そうなのよ、ちゃん」


新八君のお姉さんであるお妙ちゃんが最近ストーカーの被害にあっているらしく、この日定食屋で話を聞いていた(実はつい先日お妙ちゃんと仲良くなったのでした)ストーカー...そりゃ大変だ。お妙ちゃんくらい可愛くて綺麗な女の子だとそういう意味で大変だよなあ。あたしはその点に関しちゃ全然心配いらないんだけども


「よかったじゃねーか。嫁のもらい手があってよォ」


話を聞いてた(たぶん半分くらいしか聞いてないだろうけど)銀さんはというと、あたしの横でパフェを食べながらのん気なことを言っていた。その隣で神楽ちゃんは普通よりも3倍でかい器のラーメンを食べているというより啜っている。うーん、何かもっと真剣になってもいいんじゃないかなって思うんだけど


「帯刀してたってこたァ幕臣かなんかか?玉の輿じゃねーか。本性がバレないうちに籍入れとけ、籍」
「それどーゆー意味」
「お、お妙ちゃん!?ちょ、あ、銀さんも大丈夫ですか?」


相変わらずのん気に余計な言葉を口にした銀さんの頭を鷲掴みにし、テーブルの上に片足を乗せて思いっきり顔面を机に叩きつける。しかも不運なことに丁度押し付けられたところにはパフェがあり、容器共々パフェがダメになってしまった。...確かに銀さんも余計なこと言ってたけど、お妙ちゃんもそこまですることないんじゃ?とか思いつつ、あたしは銀さんの顔についたクリームなどをハンカチで拭いてあげて、それからパフェまみれになったテーブルを布巾で拭きながらお妙ちゃんの方を見ると、お妙ちゃんは少し疲れたような表情をして言う


「最初はね。そのうち諦めるだろうと思ってたいして気にしてなかったんだけど......気がついたらどこに行ってもあの男の姿があることに気づいて。ああ、異常だって」
「お妙ちゃん...」
ハイ、あと30秒
「ハイハイ、ラストスパート。噛まないで飲み込め、神楽。頼むぞ、金持ってきてねーんだからな」
「きーてんの、アンタら!!」


お妙ちゃんのその表情はいかにストーカに困らされているかということを物語っており、すごく気の毒に思ったあたしをよそに、店主のお爺さんがストップウォッチを持っていて、3分以内にジャンボラーメンを食べきることに挑戦している神楽ちゃんに残り時間を告げ、銀さんが神楽ちゃんにラストスパートを促し、神楽ちゃんはさらに飲み込むスピードを上げるという、なんとも場違いな様子の2人に対して新八君がツッコむ。神楽ちゃんがジャンボラーメンを全部食べ切り、食事代無料になったことを確認してから、銀さんはめんどくさそうに言った


「んだよ。俺にどーしろっての。仕事の依頼なら出すもん出してもらわにゃ」
「そんなこと言わずに。銀さん、何とかしてあげてくださいよ。お妙ちゃん、本気で困ってるんですよ」
「銀さん、僕もう2ヶ月給料もらってないんスけど、出るとこ出てもいいんですよ
ストーカーめェェ!!どこだァァァ!!成敗してくれるわっ!!


新八君がぼそりと言った一言に、銀さんは俄然ストーカー退治に燃え上がる。ああ、何て単純な人なんだろう。新八君の言うように、確かに扱いやすい


なんだァァァ!!やれるものならやってみろ!!
「うわ?!だ、だ誰っ?!」
ホントにいたよ


銀さんが勝手に燃えてそんなことを言ってるだけかと思ったら、隣のテーブルの下から人が出てきた。背は高く、がっしりとした体格をした血の気多そうな男の人だ。いきなり現れたことだけでも驚いているというのに、しっかり銀さんの言葉に返事しているではないか。...もしかしてこの人がストーカー?とは一切思わず、この人がストーカーだとすぐに確信した


「ストーカーと呼ばれて出てくるとはバカな野郎だ。己がストーカーであることを認めたか」
人はみな愛を求め追い続けるストーカーよ
「寒っ!」


いや、その言葉本当に寒いっていうか、何ていうか。そんな真顔で言えるような台詞じゃないよね。...あまりにも寒い台詞に一瞬鳥肌立ったんですけどォ!!と心の中で叫んでみても、ストーカーの男の人が知るはずもなく、さらに真剣な顔つきをして言った


「ときに貴様。先ほどよりお妙さんと親しげに話しているが、一体どーゆー関係だ?しかも、その可愛らしい女の子とまで仲良く喋ってるなんて、うらやましいこと山の如しだ」
可愛い女の子って誰だよ?
さあ、誰でしょう?
「誰でしょう...って、さん。貴女のこと言ってんですよ、きっと」
え!


男の人から出てきた『可愛い女の子』という言葉に、あたしと銀さんは2人して首を傾げる。...ああ、神楽ちゃんのことかなと思っていたら、呆れたように新八君があたしにぼそっと呟いた。...え、あたしのことなの?いやいや、まさかそれは思い上がりすぎだよね。うん、流そう


「許嫁ですぅ」


いつの間にかお妙ちゃんが銀さんの隣にいて、可愛らしくそう言いながら銀さんの腕に自分の腕を絡めた。...ああ、お妙ちゃんは嘘ついて自分のことを諦めてもらおうとしているんだというのはバカなあたしでも容易に分かる。お妙ちゃんはストーカー男にさらに追い討ちをかけるように言った


「私、この人と春に結婚するの」
「そーなの?」
銀さんっ、察してあげて下さいよ
「もう、あんな事もこんな事もしちゃってるんです。だから、私のことは諦めて」
あ...あんな事もこんな事もそんな事もだとォォォォォ!!
いや、そんな事はしてないですよ
お前、もしかしてちゃんとも...貴様ァ、調子乗ってんじゃねェェェェェ!!
「ええっ?!何であたしの名前を?!」
つーか、何でそこでさんが出てくるんですか


ストーカー男は何か勘違いをして勝手に妄想し、興奮して銀さんに向かって叫び出す。いやいやいや、本当新八君の言う通り、何でそこにあたしの名前が出てくるんだろ?それが激しく疑問なんですけど!......ああ、お客さんがめっちゃあたし達の方を見てるのがすごく気になる。うるさくて、申し訳ないです


「いやっ!!いいんだ、お妙さん!!君がどんな人生を歩んでいようと、俺はありのままの君を受け止めるよ。君がケツ毛ごと俺を愛してくれたように」
愛してねーよ
...あの聞いてもいい?2人の間にどういうやり取りがあって今に至ったの?
「オイ、白髪パーマ!!お前がお妙さんの許嫁だろーと関係ない!!」
いやいや邪魔しちゃいけないんじゃないですか、それは。卒業ですよ、それ
「お前なんかより俺の方が愛してる!!」
「何を根拠にそこまで言えるんですか」
「決闘しろ!!お妙さんをかけて!!」
「何でそうなるんですか!つーか、さっきからツッコミ無視!?」


......ツッコミ疲れて、もう何が何だか展開がよく分かりません






CCCCC







場所を変えて、ここは河原。決闘を申し込んだストーカー男はすでにやる気満々な様子で河原に立っていて、あたしとお妙ちゃん、そして新八君と神楽ちゃんの4人はすぐ近くに掛かっている橋からその様子を窺うことにした。だけど、決闘を申し込まれた肝心の銀さんは厠に行ってるみたいで不在


「よけいなウソをつかなきゃよかったわ。なんだかかえって大変な状況になってる気が...」
「うーん、ウソをつく相手が悪かったかもね」
「そうよね。それにあの人多分強い...決闘を前にあの落ち着きぶりは何度も死線をくぐり抜けてきた証拠よ」


お妙ちゃんは橋の手すりに手を置きながら、はあとため息をついた。お妙ちゃんの言葉に、あたしが苦笑しながら答えると、そうよねと言ってお妙ちゃんはさっきよりも大きなため息をつき、それから下にいるストーカー男を見て言った。あたしもつられて見ると、確かにお妙ちゃんの言うとおりストーカー男はやけに落ち着いていて、さっきとはがらりと雰囲気が違う。...うーん、大丈夫かな銀さんと少し心配になったあたしの隣でガシャコンと音が鳴る


「心配いらないヨ。銀ちゃん、ピンチの時は私の傘が火を吹くネ」
「なんなのこの娘は」
「成る程。あたしも銀さんがピンチになったら、この矢でストーカー男をぶち抜くよ
さん、それはやりすぎですよ。つーか、別に神楽ちゃんに乗る必要もないです」


実はあたしは背中に弓矢を背中にしょっていて(池田屋事件とかこのまえのこととかで武器を携帯しといた方がいいことに気づいたんで)(もちろん持ち歩いたらいけないっていうのは百の承知)矢を射ようとストーカー男に向かって構えると、新八君に止められた。ああ、やっぱりやりすぎだよね、と思って弓を降ろした...関係ないけど、弓じゃなくてもっと手軽で違う武器が欲しい。本当は木刀とかが欲しいんだけど持ってないんだよね


「おいッ!!アイツはどーした!?」
「あーなんか厠いってくるって言ってました」


散々待たされて痺れを切らしたのか、ストーカー男はあたし達に向かって銀さんはどうしたのか尋ねてきた。それに対して、新八君が答える。...うーん、確かに遅いよなあ、銀さん。もしかして勝負ほったらかしてどっか行っちゃったのかな?...いや、でもあたし銀さん信じてるし!と思ってたら、銀さんが姿を現した


「来たっ!!遅いぞ、大の方か!!」
「ヒーローが大なんてするわけねーだろ。糖の方だ
糖尿に侵されたヒーローなんてきいたことねーよ!!
「アンタら、何っちゅー話してるんですか!!」


決闘の前の会話だとは思えない下ネタ満載の会話にツッコミの血が騒いだあたしは思わず2人にツッコむ。っていうか、仮にも女の子なあたしと神楽ちゃんに決闘の発端である可愛いお妙ちゃんの前でそんな話するなんて、本当男の人ってデリカシーっていうものがないんですかね?


「獲物はどーする?真剣が使いたければ貸すぞ。お前の好きにしろ」
「俺ァ、木刀で充分だ。このまま闘ろうや」
「なめてるのか、貴様」


いきなり張り詰めた空気に変わった気がして、あたしは思わず唾をごくりと飲む。今からこの2人の決闘が始まるんだ、と思うと何か変にあたしまでドキドキしてきたような気がする。そんな心境の中橋の上から2人の会話を聞きつつ、あたしも「え?」と少し思ってしまった。真剣相手に木刀で闘るって...銀さん、少し無茶じゃないかなあ。ストーカー男がなめられていると思ってしまうのは無理はない。何でだろう?と内心首を傾げながら、銀さんの次の言葉に耳を傾けた


「ワリーが人の人生賭けて勝負できるほど大層な人間じゃないんでね。代わりと言っちゃ何だが俺の命を賭けよう」


銀さんの表情はいつもより真面目で、さらりとこんな言葉を言う。そして、まだ言葉を続けた


「お妙の代わりに俺の命を賭ける。てめーが勝ってもお妙はお前のモンにはならねーが、邪魔な俺は消える。後は口説くなりなんなり好きにすりゃいい。勿論俺が勝ったらお妙からは手ェ引いてもらう」
「ちょっ、止めなさい!!銀さん!!」


正直その言葉を聞いて、素直に銀さんがカッコイイと思った。っていうか、かなりトキめいたんですけど。めちゃくちゃ素敵なことを仰られるじゃないですか、とあたしは銀さんを見直していると、あたしよりも事の重大さを重く受け止めたお妙ちゃんが銀さんに向かって止めるように言う。しかし、銀さんは聞く耳持たず、真剣にストーカー男を前に見据えている

すると、突然ストーカー男がククと小さく笑った


「い〜男だな、お前。お妙さんがほれるはずだ。いや...女子より男にもてる男と見た」


そう言って、腰につけてた真剣を手に取るとそれを地面にガシャンと落とした。そして顔を上げて、限定すると新八君の方に向かって言う


「小僧。お前の木刀を貸せ」
「?」


ストーカー男がそう言うと、男の足元にカランと木刀が転がる。よく目を凝らしてみれば『洞爺湖』という文字が見えたので、その木刀は銀さんのだ。男は驚いたように銀さんを見ると、銀さんはフと笑った


「てめーもいい男じゃねーか。使えよ、俺の自慢の愛刀だ」
「銀さん」


銀さんの木刀を男に貸すということは銀さんの手元には何もないということで、新八君が自分の木刀を橋の上から銀さんに向かって投げた。銀さんはそれを片手で難なく受け止め、その視線の先には銀さんの木刀を持ってすでに構えているストーカー男がいる


「勝っても負けてもお互い遺恨はなさそーだな」
「ああ、純粋に男として勝負しよう」


何かこういう男の決闘ってカッコイイよね。女みたいにドロドロしてないっつーか、さっぱりしているっていうか。ともかく銀さん、お妙ちゃんの為に頑張ってと手を祈るように胸の前で組みながら2人を見ていると、その会話が切れた瞬間二人は同時に地面を蹴る


「いざ!!」
「尋常に」
「「勝負!!」」


いよいよ始まった。銀さんは木刀を振り上げ、ストーカー男も思いっきり木刀を振りかざす。たった今、男の戦いに火蓋が落とされたよ!!

...って、あれ?


あれ?


今、ストーカー男の木刀の先が空を舞った気がするのは気のせい?いやいや、気のせいじゃないよね。だって、今ストーカー男が持っている木刀の先がないもん


「あれェェェェェェ!?ちょっと待て、先っちょが...」


木刀の先が折れるというアクシデントに戸惑いを隠せないストーカー男を気遣う様子もなく、銀さんはそのままストーカー男の方へと直進していく。そして


「ねェェェェェェェェェェェェェェ!!」


男の顔面を木刀で強打した。その衝撃で男の身体は吹っ飛ばされ、地面に叩きつけられた直後もしばらく地面に擦りながら河原に倒れた。それを見ていたお妙ちゃんはポカーンとした表情をし、新八君は口を大きく開けて酷く驚き、神楽ちゃんは何ともいえない表情をしていた。あたしはというといきなりのことで焦った表情をしていると言っておこうか


「甘ェ...天津甘栗より甘ェ。敵から獲物借りるなんざよォ〜」


そう言って銀さんは倒れたストーカー男に歩み寄り、その途中で折れた木刀を拾い、いきなりこんなことをカミングアウトしだした


「厠で削っといた。ブン回しただけで折れるぐらいにな」


.........オイオイオイオイ。それってぶっちゃけちゃうとズルだよね?どーりでここに来るのが遅かったのか...!あたしは心底呆れているとそんな中、ストーカー男がゆっくり口を開いた


貴様ァ、そこまでやるか!
「こんなことのために誰かが何かを失うのはバカげてるぜ。全て丸くおさめるにゃコイツが一番だろ」
コレ...丸いか?...


銀さんの言葉に対して疑問の言葉を口にして、ストーカー男はガクッと項垂れた。どうやら完全に気を失ってしまったようだ。無理もない、あんなに銀さんに思いっきりぶたれたのだから。...ってか、お気の毒すぎるよ、全く。銀さんはというと、何事もなかったかのように、いやむしろ上機嫌にこちらの方に来ていた


「よォ〜」
...神楽ちゃん
オウ
「え、どうしたの?2人とも」
「どうだい、この鮮やかな手ぐ...ちゃぶァ!!
「新八君!?神楽ちゃん!?」


銀さんの言葉を新八君と神楽ちゃんの2人が遮る。どうやってかと言うと、橋の上から飛び降りた勢いで銀さんを踏みつけて。あたしも橋の上から飛び降りようとしたんだけど、やっぱりやめて(だって飛び降りるなんて無茶だよ。絶対足骨折するって)お妙ちゃんに「ちょっと行って来る」と言い残し、回り道して河原の方に降りていった


「あんなことして勝って嬉しいんですか、この卑怯者!!」
「見損なったヨ!!侍の風上にも置けないネ!!」
「お前、姉ちゃん護ってやったのにそりゃねーんじゃないの!!」


銀さんはというと神楽ちゃんに羽交い絞めされている上、新八君に何度も何度も蹴られていた。どうやら、っていうか言わなくても2人は卑怯な真似して勝利を得た銀さんに心底腹を立てているようだ。......まあ、気持ちはものすごく分かるけど。2人はまだ若いから、曲がったことが許せないんだね


「もう帰る。二度と私の前に現れないで」
「しばらく休暇もらいます」


一通り銀さんを痛めつけた後、2人はそんな言葉を言い残し、先に帰ってしまった。銀さんはというと、河原に伏せて倒れている。もうボロボロだ。あたしは銀さんの方に駆け寄った


「大丈夫ですか?銀さん」
「なんでこんなに惨めな気分?」


銀さんはぽつりと呟きながら、ムクと起き上がった。かなりボロボロだったけど、まあ大丈夫そうだ。....うーん、惨めな気分ねェ


「...今度からやり方変えた方がいいってことですね」
「そうだな。......あー腰痛ェ」


何度も言うけど、2人はまだ若いからこういうやり方を認められないだけ。でもあたしは分かってるよ、銀さん

......銀さんって、態度とかには絶対出さないけど本当お人好しな人ってこと





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河原で決闘編。今回、ヒロインは頑張ってつっこんでます(そこかよ)ちなみにヒロインは2人のこと若いって言ってますが、実際歳はそんなに離れてません。設定はお妙さんと同じの18歳


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