青い空、白い雲。そこを目指して、あたしはゆく。まあ、残念なことにここは南の島のビーチとかじゃなくて、島国の日本という国にある、どこにでもありそうな私立の学校の屋上なんですけども。だけど事実、空が青い、すなわちいい天気。つまり、何が言いたいのかと言うと、まあぶっちゃけちゃうと授業をマジメに受ける気になれないってことですが。しかも、今日は本当に授業なんてのん気に受けてる場合じゃないんだわ


手に真っ白なプリントを握り締めて、反対側の手でドアを開く。その瞬間あたしの直感がこう言った、そこには絶対ヤツがいる、と。よく考えてみればこんないい天気なら尚更。そうでなくても、あたしとヤツの遭遇率はかなり高いんだから





行く先々で現れるあの人は





「.......」
「何ですか、その顔」
「.....はあ」
「人の顔見てため息吐くなんて失礼極まりないですよ」
「うっさいわね!」
「言葉遣いも、もう少し気をつけたらどうです?」



屋上のドアを開くと、予想した顔がそこにあって。あたしは予感的中したことに思わず脱力、そしてため息。すると、目の前で優雅に座って本を読んでいる男が、ドアの前でフリーズをしているあたしに言い放つ。あたしは何とも言えない気持ちに襲われ、男の言葉を無視してもう一つまたため息


......確かに人の顔を見てため息つくのは失礼極まりないことだと思う。だけど、コイツの言い方にあまりにもムカついたから、あたしは思わず怒鳴った。男はそんなあたしをスルーしてまたもや嫌味。....こんの偽紳士...!


そう、ヤツの名は偽紳士こと柳生比呂士である。偽紳士と呼んでるのは残念ながらあたし1人なんだけど



さん」
「ハイハイ、座ればいいんでしょ?目障りですからねー」



毎回、この男は突っ立ってるあたしに自分の隣に座るように促して。あたしもあたしで、可愛らしくない口をききながら、今回もまたコイツの隣に座った。もちろん女の子らしい座り方なんてしない。足を前に放り出して、あたしは壁にもたれかかった。そして、ちらりと横目でヤツの顔を見る。ヤツはまた小説を読んでいた。あたしの勘では恐らく歴史小説だろう。その根拠は表紙が織田信長だから


.....つーか、黙っていれば、悔しいけど本当にカッコイイと思う。さらさらと風に靡く綺麗な茶の髪に、テニス部員だというのに日焼けしていない羨ましいくらいの白い肌、整形したんじゃないのと思わず疑ってしまうような整った顔立ちをしているこの男は。だけど、口を開くとたちまち単なる腹黒男に早変わり



「...分かってるのなら、最初から座ればいいんですよ」
「...アンタはどうしていちいちムカツク言い方するの?」
「そういう貴女こそ、どうしていちいち喧嘩を売るような言い方をするんですか?」
「どうせ、買ってくれないくせに」
「そんな暇ありませんからね」
「金がないの間違いなんじゃないの」
「...貴女のことじゃないんですか?」
「ボンビー学生で何が悪い!」
「誰も悪いなんて言ってないでしょう」
「くあー、やっぱりそんの涼しげな顔、腹立つー!」



あたしがヘタなわけじゃないけれど、コイツはムカツクくらい口が上手い。あ、もちろん屁理屈に関してだけだけど。人がムカツク点をよく抑えていると言っておこう。本当に腹立つくらいその横顔が爽やかだよね。たぶん、コイツのこんな顔を見たことあるのはあたしだけだと思う。...いや、テニス部レギュラーならあるか...?まあ、どうでもいいことだけど



さんのクラスは今何の授業ですか?」
「...また、親切にもあたしに構ってくれようとしているの?」
「まあ言ってみればそうですね」
「そうですか、ちなみに今現代文ですが何か」
「別に聞いてみただけです」
「ちなみにアンタんとこは聞かなくても...」
「自習です」
「うわ、アンタのクラス、やけに自習多いね」
「仕方ないです。地理の先生の子供さんが熱を出したそうで、早退されたんですよ」
「そりゃ、アンタみたいな可愛くない生徒より自分の子の方が可愛いわよねー」
「授業を真面目に受けてくれないどこかの誰かさんよりかはマシですが」
「......言うね」
「言います」



本から目を離し、そうきっぱり言い切って、勝ち誇ったように男は笑う。...本当に何なのよね、その生意気で腹立つくらい整った顔。あたしは、思わずうっと黙ってしまった。それを見て、また男はクッと笑って、視線を本へとまた戻す。...無性に腹が立ったので、あたしも男から視線を反らし、空を見上げた


今日の空も青い。太陽が惜しみなく照り続ける今日の天気はもちろん快晴。空と雲のコントラストが美しい、とそんなキャラじゃないけど批評家ちっくに言ってみる。屋上を吹き抜けるのは爽やかな風、ああ、今窮屈な教室で授業を真面目に受けている人が本当に可哀想だ。....いや、可哀想なのはあたしの成績なのかもしれないけれど



「....そういや、さんの手に持っているのは何ですか?」
「え?ああ、コレね...コレは.....」
「......って....貴女、その紙を何だと思ってるんです?」
「......」
「そんなクシャクシャにして、不真面目すぎませんか」
「だー、もううるさいうるさいうるさいー!アンタはいいよね、決まってて!どうせ小姑でしょ!」
「失礼な。私はもう提出しましたがそんな進路希望を書いてません」



そういえば、自分で握り締めているのにも関わらずこの白い紙のことをすっかり忘れてしまってた。屋上に来たのだって、誰もいないところでこの白いプリントを埋めようと思ったからなのに。...まあ、ヤツがいてその計画が台無しになりましたが


そう、もうお分かりだろうが、白いプリントとは進路希望調査のプリントである。白いのは、別にプリントが真っ白いんじゃなくて、何も書いてないからだ。何も書いてないのは、まだ自分の進路が決定してないからで。だって、将来の夢とかまだ決まってない。未来のことなんて未定だよ



「ってか、どうしてあたしの進路を教師達に提示しなきゃいけないの!」
「個人の進路に合わせて指導するため、それしかないでしょうね」
「別にいいし、そんなの!」
「そんなわけにはいかないでしょう」



.....分かってる、そんなわけにはいかないこと。先生達もそれが仕事だから、仕方なく他人の子供の進路を聞いて、できるだけ真っ直ぐに道を歩かせようと親切にもしてくれるだけ。仕事じゃなかったらこんなことやってられないだろうね。だけど、何かこの男にきっぱり言われたことが無性に悔しくて、あたしは聞いてみた



「.....じゃあ、アンタは何て書いたのよ?」
「聞いてどうするんですか。私のを聞いて、参考にするつもりはないでしょう」
「うん。聞き流す」
「そうですか、まあいいでしょう。私はとりあえず内部進学ですね」
「その先は?」
「いい大学入って、いいところに就職できたらなあなんて思ってるんですが」
「うわ、頭良いヤツはムカツク」
「ですがそれくらい私が頑張りませんと、家族を養っていけませんしね」
「自分の家の?」
「いいえ、自分が持つ予定の家族です」
「結婚する気満々ね」



うわー、この人もう未来予想図バッチリじゃんー。羨ましいを通り越してムカツク。何がいい大学よ、何がいいところに就職よ、しかも結婚する気満々だし。まあ、そうよね。コイツ、性格は超悪いけど顔はいいから、そりゃ女は寄ってくるわよね



「...人の夢を馬鹿にするのは止めてくれます?」
「そんなつもりはないけど、もしかして声に出してた?」
「いいえ、顔に出てました」
「何で分かるのよ」
「私を誰だと思ってるんですか」
「偽紳士」
「...通じないですか、そうですか」
「アンタこそ、あたしをバカにしてるよね?」
「いえ。それより、少しくらいそのプリント埋めてみたらどうです」
「アー...ソーネー」



まだ何にもかかれてないプリントを見て、あたしは棒読みで呟く。ヤツの言うとおり、このプリントをどうにかしなきゃいけない。何せ、今日が提出日。あたしの担任は期限に五月蝿い人だから絶対待ってくれないし



「仕方が無いですね。私が協力してあげましょう」
「は?」



ヤツはそう言って、あたしの手からプリントを取り、それから自分のメガネの山をくいっと上げた。あたしが「別にアンタの協力なんかいらないし」と言いながら奪い返そうとすると、ヤツはあたしの手の届かないところまでプリントを持っていき、何事もなかったような涼しい顔をして口を開く



さんは内部進学の予定ですか、外部進学の予定ですか?...それくらいは決まってるでしょう」
「言い方ムカツクわね。しかもまだ決まってないし」
「じゃあ、内部進学で」
「おいっ。ちょっと待ってよ」
「何か不満でも?」
「アンタに決められることにかなり不満」
「外部進学だなんて寂しいこと言わずに。で、その後大学行く気あるんですか?」
「ない」
「でしょうね。貴女の頭じゃムリだと私も思います」
「何それ」
「じゃあ、専門学校か就職かになりますよね」
「勝手に進めるなー!ってか、何であたしがアンタにそんなことまで話さなきゃいけないの!」
「それは、私の将来に関わるからです」



突然、ムカツク顔でそんなことを言うから、あたしは思わず口を閉ざして、嫌そうな顔をする。「あれ、笑いませんか?」と普通に聞いてくるコイツは何を考えてるのか全然分からない。だけど、あたしはそこまで鈍くないコだから分かることだってあるけども



「冗談じゃないわ。全っ然、笑えない」
「そこまで馬鹿じゃなかったことですね」
「アンタ、どこまで人を馬鹿にする気よ?」
「私は見直したと言ってるんです」



本当に調子狂うわ。あたしは、いいかげんその涼しげな顔を見るのに飽き、目線を上に上げる。何度見ても空は青い。天気がよくて気持ち良いから、コイツはここにいるんじゃない



「でも、さすがにやりすぎましたね。貴女と遭遇するという『偶然』を作りすぎました」
「.....こんの、偽紳士!」
「というわけで、内部進学、で将来の夢は柳生の嫁って書いときますか?」
「断固拒否!」
「...苦労はさせませんよ?」



いきなり顔の向きを変えさせられて、あたしはイヤでも不敵に笑う偽紳士の顔を見なきゃならなかった。...紳士なら、女の子をこんな乱暴に扱うわけがないもん。コイツは間違いなく偽紳士。でも、悔しいけどカッコイイ



「......アンタと明るい家庭を作ってるあたしの姿、想像できるわけないじゃない」



未来はどうなるか分からない。もしかしたらそんな未来もあるかもだけど、でも今は。アンタの帰りを味噌汁作って待ってる自分なんて想像も出来ない。そう言ったら、偽紳士は「未来ってそういうもんですよね」と言ってまた不敵に笑った




問い:行く先々で現れるあの人は、あたしの何ですか?


答え:あたしを嫁にもらってもいいですよ発言をして、あたしの調子だけでなく未来までも狂わせる偽紳士










『夢味キャンディー』様への企画夢。「サボリの間」の続編。偽紳士を書けて大満足です(あ、そう)