「へえ、スピカってスペクトル型がB型なんだー」



彼女が唐突にこんなことを言い出したので、思わず彼女の方を見てしまった。彼女は独り言のように言いながら、腕を組み首を傾げていた



「スピカって青い星だから、温度が低いと思ってた。ん...?待てよ。あたし、勘違いしてたみたい。青い方が温度高いじゃん!うわ、どうしよ。思いっきり間違えて色塗っちゃったよ」



そう言って、地学の課題のプリントを僕に見せる。そこに書かれてあるHR図は綺麗に色を塗られていて、珍しく彼女が頑張った痕跡が残っている。ただ問題なのは、色の配置を間違っているということだ。HR図とは、絶対等級を縦軸にスペクトル型(表面温度)を横軸にとった、デンマークのヘルツシュプリングとアメリカのラッセルという人が独立して作ったものだ。絶対等級、スペクトル型によって恒星をプロットしていくと、恒星を大まかに三つに分類することができる。その図の横軸であるスペクトル型は大抵左から右へ「O B A F G K M」と分類されて、左から右へいくごとに温度が低くなっていく。その表を色分けするのならば、青から白、そして黄色、橙、赤となるのだが、彼女の表はまるっきり色の配置が逆になっていた。要はOのところを赤に塗っているのである。それに気づいた彼女は、自分の努力が無駄になったことに気づき、盛大にため息をついた



「はあ、何であたしこんなバカなんだろ?」



今更気づいたの、と僕がそう言うと「うるさいなー!つーか、周助もあたしが言うまで知らなかったでしょ!スペクトル型がB型だって」とやけになったように言ってくるから、まさか、と僕は笑った。僕はちゃんと知っている、スピカがB型で青白い星だということも、また青白い星の方が温度が高いということも



「ってかさ、不思議だと思わない?何で青い方が温度高いんだろ?赤い方が温度高そうにみえない?」



確かにそうかもしれない。その理由はたぶん二つあると思われる。一つはたぶん人間の先入観があるからであって、もう一つはこの世界でそれだけ色が青みがかるほど高温なものを目にすることが少ないからではないか。まあ、それは僕の私的な意見に過ぎないけれど。僕がそう言うと、彼女は納得したような表情を見せ、うんうんと頷いた



「成る程ねー。そう言われてみればそうかもしれない」



そんな彼女に、まるでスピカってみたいだね、と僕は言う。彼女は驚いたような顔をして、すぐに得意げに言った



「あたしがそんなに清純そうに見えるって?やだー、分かってるよ」



...スピカのスペクトル型がB型と知らなかったくせに、スピカの日本語名は知ってるってことか。スピカは日本語名では真珠星という。その清純な光が真珠を連想させ、名づけられたというわけだ。勘違いもいいとこだよね、と皮肉っぽく言ってみると、彼女はむっとして「じゃあ、何でよ?」と聞き返す。そんな彼女がとても可愛く思えて、僕は思わず笑ってしまった



「何が面白いのよー!つーか、白状なさい!」



そう言う彼女をまあまあと宥めてから、僕は言う。君がスピカに似てると思った訳を。そう言ったら、君は少し顔を赤くし、僕から顔を背けて、「自意識過剰もいいとこだよね」と先ほどの僕のセリフの形式を真似ながらそう言った。確かに自意識過剰かもしれない、だけど事実でしょ?



「......あー、そうですー。あたしはアンタのことが好きですー」



君はいつも僕にそっけないけれど、本当は僕のことが好きなんでしょ。ほら、まるでスピカみたい。青いので温度が低そうに見えるけど、本当は温度が高い。それを君の恋心に例えてみた、というわけだ



「つーか、女の子だけに言わせる気?アンタだってあたしのこと好きでしょ。アンタも同じよ」



そうかな?と僕は言う。だって、僕は君に対して好意を隠していない。確かに言葉にしたわけじゃないけれど、態度には示しているつもりだ。でも、確かに男として女の子だけにそういわせるわけにはいかないな。好きだよ、と言葉にして、この気持ちを君に伝えよう


地上のスピカ


願わくは、これからも僕の傍で輝いていてくれますように



これまた『Dulce』様提出作品の不二バージョン。これも地学ネタなので結構気に入ってます。タイトル負けしてますが(もう本当素敵なタイトルありがとうございますー!)