こんな暑い日に外にいるなんて予定外だった。太陽は嫌がらせのごとく照りつけ、日光に含まれる紫外線がいつにもなく肌に容赦なく突き刺さって痛い。こういうときに限ってあたしは日焼け止めを塗っていないし、日焼け対策として日傘も長袖のカーディガンも持っていなかった。袖から見えるあたしの腕の大部分は紫外線に悲鳴を上げているに違いない。今まで頑張ってきた日焼け防止対策もこれで無駄になる。まだ日焼けしておらずあたしにしては白い自分の肌が黒くなるのを想像して、はあとため息をついた
空を見上げる。雲一つない快晴だと言わざるを得なかった。あたしがいる場所は学校の屋上なので、空を遮る建物もなく視界全体に広がる空に存在する憎き太陽の眩しさにあたしは目を細めた。それにしても暑い。半そでのカッターと夏用の薄いスカート、日焼け防止にはならないけれど暑さ対策はばっちりなのにそれでも暑い。暑いと思ったら余計に暑く感じてくる。何故だろうと考えれば、太陽が直接当たる場所にいるからというのもその理由の一つに入るだろう。あともう一つはきっと風が生温いからだと思う。髪を撫でてく風はあんまり心地良くはない
今年はラ・ニーニャ現象が起こっているとニュースで言っていた。エル・ニーニョ現象の女の子バージョンらしくて、どういう現象なのかははっきりと知らないけれど、とりあえず今年はそのおかげで猛暑になるらしい。女は情熱的で暑いのだ。...違う、漢字変換間違えた。女は情熱的で熱いのだ
「」
「何」
「ダルイ」
「...あたしを呼び出しておいて第一声が『ダルイ』はないでしょ」
そんなことを考えていると急にガラの悪そうな不良に絡まれた。学校という神聖な場で不良に絡まれるなんてありえるかしらと一瞬思ったが、そういえばと思い出す。隣にコイツがいたんだ、と。そうだった、コイツのせいであたしは授業中なのにこんな屋上にいるんだ。いきなりコイツが「今から屋上来いよ」とメール送ってきたから、日焼け防止対策もせずに紫外線を思いっきり浴びてるんだった
あたしを呼び出した男、宍戸亮はあたしの幼馴染である
あたしが隣にいる男を見ると、その男はあたしの顔をちらっと見たかと思いきや『ダルイ』とか言ってのけやがった。おいおい、そりゃないでしょ。あたしがそう言い返すと、男はやけに涼しい顔で「そうだな、悪い」とあっさりと自分の非を認めた。......口先だけだな、コイツ
「...何かあったの?」
「別に」
「この期に及んでまで嘘つかないでよ」
あたしが何かあったのかと問えば、しらっとしながら亮は別にと答える。正直いらついた。だって何もないのにこんな直射日光が当たる場所に呼び出すことないでしょ。しかも授業をサボらせてさ。それなのに何もないですって?あたしに日焼けさせた償いはできるんでしょうね。全く
あたしの幼馴染は変なところ意地っ張りで、変なところ寂しがり屋だ
「...別に」
「まだ言うかっ」
「いて」
「痛く叩いたんだから痛いに決まってるじゃん」
あたしがそう言ってるのにまだ意地を張ってる亮の頭を一発グーで殴る。もちろんありったけの力を込めて。何すんだよと言いたそうな目であたしを見てきたから、あたしはふんと目を亮から背けて空を再び見た
さっきと変わらない青い空。全然時間が経ってないので当たり前と言えば当たり前のことだった。太陽が気を遣って紫外線の量を減らすわけでもなく、風が拗ねて少し冷たくなるわけでもない。だけど明日はどうなるか分からないよね。明日は雨かもしれないし、もしかしたら雲が登場して紫外線の量を減らしてくれるかもしれない。...あたし、分かってるよ。ちゃんと分かってる
それと同じようにさ、今度の日曜はどんな日になるか分からないってこと
「...もうすぐアンタ試合だよね?」
あたしの言葉に返答はなかった。どうせ図星だと言わんばかりの表情をしてるんだろうなと予測はついたから、あえてあたしは亮の表情を窺うことはしない。それよりもあたしはさっき亮を殴った手がまだじんじんしていることの方が気になった。思いっきり叩いたからかもしれない。それから手に触れた感じも違和感を覚えずにはいられなかった
「ああ」
しばらく黙っていた亮から返事があった。それにしても何て短い返事。分かりやすすぎて逆にどうしたらいいのか分からない。あたしは「そっか」とだけ返しておいた。「そうだ」とまた短い返事が返ってくる。あたしはそこで亮の方を見た
空を見上げる亮は何だか別人のようだ。まあ、それもそのはず。亮は長かった髪をばっさりと切ったのだから。某テニス部レギュラーの話だと、一旦レギュラー落ちした亮だが血の滲むような練習を重ねて先日レギュラーの滝君との試合に勝利したのだった。そしてレギュラーにしてもらえるよう監督に頼んだ時に誠意と根性を見せるといった意味で亮はばっさりとハサミで自慢の髪を切ったのだ。それと跡部君の後押しもあって亮は見事レギュラーに復帰したのである
亮がレギュラーに戻れたのはとても嬉しいけれど、特別手入れをしてるわけではないのに無駄に綺麗な亮の髪を触るのが好きだったので少し残念だった。それから寂しかった。今まで一緒にいた長い髪の亮はもういない。あたしの隣にいるのは少し大人っぽくなって髪を短くした亮だ。さっき叩いたときに感じた違和感はきっとそこからきたものだと思う。いつもは『さらさら』なのに、さっき手に感じたのは『トゲトゲ』といった感触だった。あたしはその感触を今初めて知る。何か冷たい水をかけられたような衝撃だ。冷たい水をかけられてあたしが目を覚ますと、亮は変わってた
「...不安なんだ?」
とても寂しいけれど、あたしはまだまだ譲る気はない。亮に一番近いこのポジション。あたしはきっと世界中の誰よりも亮の些細な変化に気づける。ううん、絶対に気づけるよ。だからあえて直球で。あたし、変化球は受け止めないから返してくる時はストレートでお願いね
「...やっぱ分かるか?」
亮はそう言って小さく笑う。ほら、やっぱり当たってた。亮は不安を大っぴらに他人に見せない。亮は零すように不安を見せる。それは本当に小さくて見逃してしまいそうだけど、あたしは見逃さないよ。アンタと何年一緒に居ると思ってんの?
「俺さ、もう負ける気はねぇ。相手が強かろうと何だろうと絶対に負けねぇ。けど」
ようやく亮は決心がついたのか思っていることを吐き出した。あたしは黙って亮の話を聞く。うん、そうね。亮にはもう負けて欲しくない。別に格好悪いとか言うよりも、あんなに押し潰された亮を見るのはもう嫌だ。そんなことを思っているあたしの横で、亮は逆接の言葉で会話を繋ぐ
「...何かここらへんが気持ち悪いんだ。絶対負けないと思う反面...不安もほんの少しだけあって」
「...」
「その少しの不安がこんなにも重いんだ」
亮は胸の辺りに手を置きながら言う。いつにもなく弱気だ、あたしはそう思った。そりゃ落ち込むことは人間誰だってあるけれど、亮がここまで弱気なのは見たことがない。亮はどこか悲しそうに空を見上げた。亮の目には青空が映っているけれど、亮の心の中はそうじゃない
だったら、あたしは亮の心の雲を払うよ。こんな晴れた空の下では亮に笑っていて欲しい。だってあたしは亮の幼馴染だから
伊達に一番近くに居るわけじゃないんだよ
「不安を抱えるな、とは言わないけど。でも、あたしの知ってる亮は少しの不安で動けなくなるようなヤツじゃない」
あたしの知ってる宍戸亮は勝利に貪欲でその為には努力を惜しまない世界で一番カッコイイ男なんだから、それくらいは当然で
「あたし、アンタに負けて欲しくない。つーか、アンタは負けない」
あれだけ必死に練習をして、あれだけぼろぼろになって、あれだけ辛い思いをして。そんな頑張ってる人を神様は見放すわけがない
「絶対大丈夫だよ」
アンタは絶対大丈夫。アンタはまた笑えるよ
「......そうだといいよな」
あたしが言った言葉に対して、亮は少し間を置いてそう言った。あたしはそれを聞き、すぐに返す
「そうだといいよな、じゃなくて、そうなの。つーか、アンタ。あたしにここまで言わせて負けたら承知しないよ。天の上までぶっとばしてやる」
そう言って亮を睨みつけるように見ると、亮は少し驚いたような顔をしていた。それからくしゃって笑って、笑い声も漏らす
「お前、女がぶっとばすとか言うなよ」
「男女差別発言はんたーい。ってか、言っとくけどマジだからね?」
「おー怖。じゃあ絶対勝たなきゃヤバイってことか」
「だからそう言ってるでしょ」
あたしがそう言うと、そうかと納得する。そうよと言えば、亮は分かったと頷いた
「天まで飛ばされたくないから、勝つしかないよな」
そう亮が試すように言ってあたしに笑いかける。あたしは何だか嬉しくなって、同じように試すように笑った。...うん、これがあたしの知ってる亮だよ。あたしの知ってる亮は勝利に真っ直ぐ向かって歩む男なんだから
「あ、チャイム鳴った」
「そうだな。ありがとな、付き合ってくれて」
「何言ってんの?何か素直に亮が言うと気持ち悪い」
「何だと、てめえ」
否定せずにあははとあたしが笑って見せると、亮は不機嫌そうな顔を緩めた。それからすっと立つ。チャイムもなったし、どうやらもう教室に戻ろうとしているようだ。変なところアバウトで変なところで真面目な幼馴染にあたしは手を伸ばした。すると、亮はマヌケな声を出す
「あ?」
「立たせて」
「子供かよ」
そう言いながらも亮はあたしの手を取り、立たせてくれる。昔では信じられない力で立たされて、少し驚いたけれど何だか嬉しかった。たくさん亮は変わったけれど、それでも変わってないコトだってある。優しいところはちっとも変わってない
「...え、亮の手冷たい。何で?」
「お前が暑すぎるんだよ」
「こんな暑いのに手冷たいなんてありえないよ。人間?」
「人間だっつーの。っていうか、いつまで握ってるつもりだ?」
「あたしの手が冷めるまで」
「バカ、そしたら俺が暑くなるだろ」
「でもいいじゃない。暖かいし」
「俺は暑い」
「や、心の話ね」
「...あ、そう(尚更熱いっつーの)」
そうやって亮はもう片方の手であたしの頭を軽く叩いた。全然痛くない。あたしはそんな亮の優しい手が好きだ。えへへと気持ち悪い笑みを浮かべながら、あたしは亮の手をさらに握り返す。季節を間違った亮の手の体温がとてつもなく安心させてくれた。安心すると暖かくなる。もちろんそれは心がで。今日はこんなに暑いけれど、でも心地よい暖かさだったら歓迎だ。手を繋ぐと暖かくなるのは冬だけではないということが分かった
手をつなぐと、暖かくなりますね
「じゃあ、これで教室まで行こうか」
「何でだよ。ってか離せって」
「えー何で?」
「アホか」
「アホじゃない」
「じゃあ無神経」
「何よそれ」
「......お前、俺を熱中症にさせる気か」
そんなわけはありません。熱中症とかなったら亮が試合できなくなるじゃん!そんなのは望んでないよ。あたしが望むのは勝利を掴む亮の姿だけなんだから
遅くなって申し訳ございません。こんな素敵な企画に参加させていただけるなんて恐縮です。何かよく分からないお話になりましたが、宍戸さんを応援したかったのです。主催者様、読んでくださった皆様、本当にありがとうございました!
20070626 空丘樹里
『純情少年少女様』への企画夢。本当は書きたかった内容と違ったため、タイトルに合わせるためお話がすごく無理やりです。とにかく宍戸先輩大好き!(何ソレ)