Happiness
あたしが幸せを感じるとき、いつだって隣に貴方がいる
「銀ちゃんは何で夕焼けが赤いと思う?」
「あ?」
時は夕方、空は夕焼け。買い物に行く時はまだ空は青さを保っていたのに、買い物から帰りの色はすっかり空から青色が消えてしまっている。もうすぐまた藍に飲まれる茜色の空を見上げたあたしは隣であたしと並んで歩いている銀ちゃんにそう尋ねてみたら、何聞くんだといった顔をした銀ちゃんはあたしを見下ろし、マヌケな声を発したので思わず笑ってしまった
「何、そのマヌケな声」
「お前がいきなりそんなこと聞くからだろーが」
「だって、何か急にそう思ったんだもん」
普通ならきっとそれが『当たり前』だから疑問に思わないような質問。確かにそんなこと聞かれるだなんて一般的にはないだろう。だけど言われてみれば不思議に感じるのではなかろうか、何故夕焼けは赤いのかって。でも赤いものは赤い、というしか他ないこの疑問にあたしはもちろん答えることはできなかったので、銀ちゃんに聞いてみた
「...そーだな。アレだ、アレ」
「アレって?」
「空が太陽を食っちまってる最中だからじゃねーの?」
「何それ」
銀ちゃんはふと夕日を見上げ、こんなことを言う。もう時間帯が時間帯なので人は少ないが、それでもあたし達と同じように歩きながら会話する人の声とか肉屋で値引きを交渉しているおばさんの声とか銀ちゃんが歩くたびに両手に持っている買い物袋が揺れる音とか耳に入ってくるけれど、銀ちゃんの声は他の音よりもはっきり聞こえて耳の中で響きが残る。それに心地良さを感じながら、あたしはまた銀ちゃんの言葉に笑った
「そりゃお前、太陽みたいな炎の塊を食ってるんだから空だって赤くなるさ」
「あれ?食べたものの色が目に見えるということは空は透明ってこと?」
「ということになるな」
「でも昼間は青いよ。何で?」
「空の部屋の壁が青いんだろ」
「じゃあ夜になったら藍色になるのは?」
「夜になったら空も寝るってことだ。寝てるのを見られたくねーから藍色のカーテン引いてんだよ」
あたしが聞く度に銀ちゃんは間を空けずデタラメを言う。はたから聞くととてもふざけたような答えだけど、それはとっても銀ちゃんらしい。銀ちゃんと一緒にいると笑いが耐えなくて、それがすごく嬉しくてあたしの顔は緩んだままだ
「へえ、空って銀ちゃんと違って真面目なのね。銀ちゃんったら夜の方が生き生きしてるし」
「うるせー」
あたしがからかうような口調でそう言えば、銀ちゃんは買い物袋を持ったままの手であたしの頭をコツンと軽く小突く。痛くなかったけど小突かれた場所を手で抑えて「痛い」と嘘を言うと、銀ちゃんは「そうやって痛みを感じるのが生きてるってことよ」とにやりと笑いながら言った
「じゃあ、空も痛みを感じるのかなあ」
「当たり前だろ。太陽みたいな高温のもん食っちまうんだからな。舌が火傷してヒリヒリするじゃねーか」
「そっか」
考えてみればそうか。太陽みたいな燃えてて熱いものを食べたら、いくら空だって火傷しちゃうよね。確かに舌が火傷してしまったらヒリヒリして痛いし。あたしは特に猫舌だから、余計にその痛みが分かる気がするよ
「ねえ、銀ちゃん」
「何だよ」
あたし、すごく今幸せだよ
そう言おうとしたけれど、いざ口に出そうとすると何だか恥ずかしくなって開いた口をまた閉じた。その代わり「やっぱ何でもない」と誤魔化すと、銀ちゃんは「変な奴」と言っただけで特に言及しなかった。何か安心したような、でも何か聞いて欲しかったような、そんな気持ちが変な風に混ざってしまってもどかしい。そう思ってあたしがじっと銀ちゃんを見つめると、あたしの視線に気づいたのか銀ちゃんはあたしを見下ろして、軽く笑った
「?何だ」
「...ううん!」
「本当、変な奴だな」
やっぱり言うの止めた。だって、やっぱり恥ずかしい。あたしは咄嗟に銀ちゃんから目を反らすと、本日二度目のお言葉を頂いた。銀ちゃんだって変な人なのにそんなこと言われたくないと口では言わず目で訴えかけると、銀ちゃんは歩くのを止めた。あたしも足を止めて「どうかした?」と尋ねると、何を思ったか銀ちゃんはあたしに買い物袋を差し出す。...これは持てってことなのかな?
あたしはとりあえずその荷物を受け取り、左手で持つ。重たい方の買い物袋は引き続き銀ちゃんが右手で持っていてくれたのであたしが持っているのは軽い方の買い物袋だったから全然重たくは感じなかったが、いきなりどうしたんだろうと思って銀ちゃんを見たあたしに銀ちゃんは左手を差し出した。あたしはその左手をじっと見つめる
「、ほら」
あたしが銀ちゃんの左手をじっと見つめていると、銀ちゃんがあたしに手を重ねるよう促す。あたしがゆっくり銀ちゃんの左手に自分の右手を重ねたら、ぎゅっと強く握られた。そして何事もなかったかのようにさっきと同じように歩き出したので、あたしも足を動かした。さっきと同じように2人並んで歩いてて
さっきと違うのはあたしの右手と銀ちゃんの左手が繋がれているということで
銀ちゃんの手は大きくて、温かくて、何だかほっとする。荷物をあたしに差し出したのも、きっと銀ちゃんがあたしと手を繋ぎたかったんだね。銀ちゃんは案外不器用だ、口で言ったらいいのに。本当、銀ちゃんらしい。銀ちゃんらしすぎて......本当に大好き
「何笑ってんだよ」
「や、銀ちゃん可愛いなあって思って」
「男に可愛いって...褒め言葉じゃねーよ」
「だって、褒めてないもん。事実を言っただけ」
「あ、そ」
「うん、そうだよ。あと...」
「あと?」
確かに男の人にとっては可愛いは褒め言葉にはならないとは思う。だけど、何か不器用な銀ちゃんがすごく可愛く思えたんだ。そう思うと、自然に顔が緩んできて自分でも気持ち悪い顔になってるんだと分かってる。でも、今とてつもなく嬉しくて仕方がないから顔が緩まずにはいられない
「...あたし、今とっても幸せだよ」
この生きてる空の下で銀ちゃんと手を繋ぎながら生きてるあたしは間違いなく世界で一番の幸せ者だよ
夕焼けの話は激しく関係ないですね(台無し)銀さんとは他愛のない話がしたかったんですよね。銀さんはこれくらいが丁度いいと思います
( 大好きっていうのはもう少しとっとくね )