今日は天気が良い。夜から雨が降ると天気予報では言っていたが、そんな気配を微塵も感じさせない青空の下で穏やかな風を切るようにパトカーを走らせる。何かと物騒な江戸の安全を確保する為にこうしてパトロールをしているわけだがこんなにのどかな日に一体何が起こるのだろうか。別にパトロールなんかしなくていいのでは、とも思うが職業上油断することができず。しかし俺と同じ職業だというのにも関わらず穏やかな日差しを浴びてすっかり心地良くなったのかうとうとと船を漕ぐように頭を上下に揺らしている奴が助手席に座っているわけで。少しの間だけハンドルから離した左手でそいつの頭を軽く殴ってやると驚いたように目を覚まし、きょろきょろ周りを見回しているのが横目で見えて、少し笑えた。ハンドルをまた握る


「もう少し優しく起こしてくれてもいいじゃないですか」
「お前が寝てるのが悪いんだろーが」
「......まぁ、確かにそうですけどこんなにいい天気なのに寝ない方がおかしいですよ」


遠回しに俺のことを言ってるのか、と問えばそうですよと肯定の言葉が返ってくる。馬鹿、運転してる俺が寝てどうするんだと言い返せば、居眠り運転は危ないですよと俺を叱るように言ったので、分かってるから寝てないんだろーがとまた返した。横目で見たアイツは小さく笑った


「副長って本当真面目ですよね。見てるこっちが疲れるくらい。あ、まぁ煙草はやめといた方がいいですけど」


そう言ってアイツは俺の前でパトロール前に隙をつかれて没収された煙草を見せびらかす。返せよ、とハンドルから手を離して伸ばしてもがひょいと俺の煙草を持ったまま手を反対にやるから届かない。いや、届かないというより運転しているからこれ以上無理だという話で。軽く舌打ちをわざと聞こえるようにしてまたハンドルを握り直す。ああ、煙草が吸いてェ。あんな風に見せられたら余計吸いたくなる。本当やってられず、不満をぶつけるように俺は言う


「おい、運転代われ」
「...いいですけど無免許運転になりますよ?」
「何でおめー真撰組のくせして免許ないんだよ」
「副長があまりに仕事を押し付けるから教習所に行く暇がないんです」


ああ言ったらこう言う、まさにアイツは黙ってるだけの女じゃない。だからこそ男ばかりの中に一人放り込まれてもたくましくやっていけるわけだが、こうも口が達者なのは上司からすれば扱いにくい。しかし確かにこう見えても与えた仕事は文句を言いながらもきちんとやり遂げる奴なので、それに免じて何も言い返さないでおく。となると会話が途切れ、沈黙が流れるわけで。しかし、沈黙が嫌いではないのでそのままそれを放置をして車を走らせ続ける。今走っているのは川沿いの道だ。青空を背景に太陽が光の粉を塗した川はいつになく煌めいていて眩しく、河原の柔らかな緑が鮮やかで楽しそうに遊ぶ子供達や犬の散歩をしている老夫婦の姿も見られた。......ああ、やはり今日の江戸は平和で終わりそうな気がする。それなのに何が悲しくてパトロールしなくてはならないんだと改めて思い、心の中で溜息を一つ。煙草さえあれば少しは気分も晴れるのにと横目で助手席の方を見てみても、窓の外を眺めているは全く気付かない。ったく、左胸のポケットに俺の煙草を入れやがって。俺が簡単に手を伸ばせないように考えたな、コイツ。こういうとこだけ賢いところがムカつく、そんなことを思っているとがいきなりこちらを向いた。何か楽しいことを思い付いたような顔をして


「副長、ちょっと車止めて下さい」
「あ?何でだよ」
「いいから!ちょっと歩きましょうよ」


いきなり何を言い出すんだ、つーかパトロール中だろ馬鹿と言い返したものの、これを返して欲しくないんですか?とにっこりと笑って左胸のポケットから俺の煙草を取り出す。卑怯な手を使いやがって。そんなことを言われたら......やはり止めるしかないだろう。甘いなとつくづく思いながら道の端に車を寄せてそのまま止める。この道はさほど車が通らないため、おそらくここに止めても大丈夫であろう。隣で軽く手を叩きながら副長優しいーと今時の若者のように言うに当たり前だろと返しておいた。......あ、でもも若者の部類に入る年齢かと思いながら、鍵を抜いてそれをポケットに入れて外に出る。先に外に出ていたに向かってお目当てのものをと思い、歩み寄りつつ手を差し出した


「おい、煙草返せ」
「はいはーい。ガンになって倒れても知りませんよー?」


案外素直に煙草を俺の手に煙草を乗せた後、はまるで子供のようにはしゃぎながら川に向かって土手を勢いよく降りて行った。何とまあ元気なことか、の走っていく後姿を見てそう思いつつ煙草を取り出し、先に取り出しておいたライターの火をつける。煙草を口に咥えて至福の時間に浸ろうとしたら、がド派手にこけていた。何やってんだアイツ、馬鹿じゃねーのと盛大なこけっぷりのあまり思わず吹き出してしまい、そのせいで煙が中途半端に出て行かずに咽る。が転んだままの姿勢で咳ごんでいる俺の方に振り返ったのは、しばらくしてからだった


「副長ー!ちょっと来てください!」
「は?」


意味が分からない。一体何があったというんだ。もう少しゆっくり煙草を吸わせろ、と思いながら俺はその呼びかけにも応じず、車体にもたれかかりながら一生懸命手招きをするを眺めていたら、痺れを切らしたのか立ち上がったが勢いよくこちらに向かって坂を駆け上ってきた。あれだけ盛大にこけたのだから当たり前だがの隊服にはたくさんの草がついていて、よくもまあ年頃の女が払いもせず平気でいられるのだろうかとぼんやり思っていると、俺の目の前まで来たにいきなり腕を掴まれた


「ほら、来てくださいよ!」
「お、おい、何だよいきなり」


その拍子に持っていた煙草をついうっかり落としてしまい、何すんだこのやろーと悪意を込めた目線をに送ってみても通じることはなく。ただ火のついていたそれをとりあえずは靴で踏みつけて火を消し、放火犯になることを免れながらもに引っ張られるがまま車から離れた。気を遣わないは俺の腕を離さないまま坂を駆け足で降りていくので、少し前につんのめりそうになりながら。そしていきなり立ち止まるもんだから、本当に何がしたいんだ?と疑問に思う


「ったく」
「ほら、副長見てください」


俺に文句1つも言わせない女は何もなかったようにその場にしゃがみ込んで、ある一点を指差した。何だと思っての指先を見てみたのだが、特に何も変わったものはそこにはなかった。強いて言うのなら白くて小さな花があるくらい。何だよ、と俺が問えばは言う。ほら、可愛い白い花が咲いてますよ。...結局ちっぽけな花のことかよ。はもしかしてこれを俺に見せたかっただけなのだろうか。そこらへんがよく分からず、俺はただしゃがんでいるを見下ろしていた。お前もこんなに小さかったんだなと思いながら


「こんな小さな花を見つけるなんて、パトカーに乗ってたら不可能ですよね」
「当たり前だろ」


そりゃこんなちっぽけな花なんてパトカーに乗ってたら見つけられるはずがない。の言葉にすぐに強く肯定すれば、は小さく笑った。嬉しそうに。幸せそうに俺には見えた


「でもあたしは見つけましたよ、この小さな花を」


が指を伸ばして小さな花にそっと触れる。撫でる。愛でる。俺を見上げる。お前は一体何が言いたい?その唇で今から何を紡ごうとしているんだ?もしかして、なんて思う俺はどこまでいったらお前に会える?


「土方さん、あたしには分かります。貴方の弱さが」


そんな、ある晴れた日のこと







花を愛でる速さで







あまりにも速く通り過ぎてしまっていたのでは何も気づけない。気づかなくてもいいことかもしれないが、きっと人生の8割は損してしまうだろう。だからこそ花を愛でる速さで周りを見渡すことも大切だ。素敵なことが見つかるかもしれない

・・・車を使わないようにしよう運動はそれらしきことがコンセプトらしいです(ぶち壊し)地球の未来を考えましょうね!





( お前はいつから俺と違う速度で歩くようになったんだ )