ダイヤモンドは壊せない
確かにダイヤモンドは天然で最も硬い物質だけど、これは物理的な話ではない。何故ならあたしはダイヤモンドはへき開性を持っていることを知っている。つまり角度を考慮して、大きな力を瞬間的に与えれば壊せるということだ。その方法を知っているあたしは望めば容易く壊すことができる
つまり壊せないのは、あたしが望んでいないからで
その白くて強い輝きがどうしようもなく愛しいのだ。キラキラ、キラキラ。角度を変えてみても輝きは褪せることはない。小さな体積から放つ不釣合いな光は眩しくて、汚れなんて知るはずもない。純粋な光を壊すことなんて、あたしにはとてもできるはずはなかった。眩しい光がとてつもなく愛しくて
光を手放せないあたしが翳るのは当然のこと
「...、大丈夫か」
ガラリと遠慮がちな音と共にドアが開かれる。その時、あたしはベッドの上で仰向けになり、何も面白いことなど書いていない天井ばかり見つめていた。ドアが開かれた次に放たれた声にあたしはそっと首だけを動かし、視線を声の主にやる。ああ、眩しい。日番谷隊長だ
「はい、大丈夫です。傷もさほど深くなかったようですし、すぐに治りました」
あたしが身体を起こそうとすると、まだ寝ていろとそっけないけど優しい言葉が返ってくる。もう四番隊の人に傷を治してもらったので別にもう大丈夫なんだけどなあと思ったが、その優しさが嬉しくてあたしはその言葉に甘えさせてもらった。だけどせめてあたしを心配そうに見下ろす日番谷隊長に安心して欲しくて笑いかけたのだが、日番谷隊長の表情はまだ安心しきってないという様子だ
「...雛森を庇ったんだってな」
「身体が勝手に動いただけです。...それより雛森副隊長は...?」
「大丈夫だ。お前が庇ったおかげで無傷だ。それと虚は雛森が片付けたそうだ」
「さすが雛森副隊長ですね」
あたしが何故こうしてベッドに横たわっているかというと、まあ端的に言えば虚にやられたのだ。つい半日ほど前、雛森副隊長と所用で現世に訪れたところ、まるでタイミングを計ったかのように虚が現れたのだが、不意すぎて攻撃をよけきれなかった(というかあたしがそう勝手に勘違いした)雛森副隊長をあたしが咄嗟にかばった、というわけだった。その後のことは覚えていないが、日番谷隊長が言うにはその後は雛森副隊長が虚を片付けてくれたらしい。雛森副隊長に御怪我はないし、あたし的には本当に『良かった』とほっとする。しかし、あたしの中で気がかりな雲がなくなっていく一方、逆に日番谷隊長の顔が曇った気がした
「どうかしましたか?隊長」
「......いや」
どうかしましたか、そう尋ねたあたしだが、日番谷隊長の否定するまでの沈黙が何を意味するかは薄々気づいてる。だって日番谷隊長は優しい人だから。これは自惚れてるわけではなく事実であって、日番谷隊長は自分の部下が傷つくことを嫌うのだ。それに加えて雛森副隊長も絡んだとこから、複雑な心境でおられると思う
「隊長、お気になさらないで下さい」
「...」
「あたしの傷はすっかり癒えました。明日になれば通常通り任務はこなしますので」
「...だが、」
「それに雛森副隊長に御怪我がなくて良かったとお思いでしょう?」
隊長の言葉を遮って、あたしは試すように笑いかけてみた。......すみません、隊長。あたし、今ずるいこと言いました。だって、こう言われたら隊長は肯定するほかない。つまり否定しようがないのだ。日番谷隊長が誰よりも大切に想っている人は雛森副隊長なんだから当たり前のことだろう。案の定日番谷隊長は口を閉ざし、その無言は『肯定』を意味している
ほら、やっぱり
分かっていたことだけど、さらにまた思い知らされる。どれだけ日番谷隊長が雛森副隊長のことを大切に想っておられるか、など考えるだけ無駄だ。それは、あたしが日番谷隊長を誰よりも想っているくらい深いものなのだから。この想いは誰にも負けない、とあたしが思うのなら、日番谷隊長が雛森副隊長を想う気持ちは誰にも負けないということなのだ
「ですから...もっと嬉しそうにして下さい。...笑って下さい」
この想いが報われないからこそ。そのことを誰よりもあたしが知っているからこそ、あたしは日番谷隊長の宝物を守りたかったんだ。日番谷隊長に悲しい想いをして欲しくなんかない。たとえこの身が傷ついてでも、それだけは譲れない
あたしの剣は貴方が笑っていられる為にあるの
「......」
「あたしは隊長が笑ってくれないと嫌です。...絶対嫌です」
隊長が笑ってくれることが唯一のあたしの慰めなんです。叶わない恋をしているあたしを唯一救える方法なんです。もしあたしを哀れだと言うのならば、笑ってください
ダイヤモンドを命がけで守る覚悟はあります
「...ありがとう。」
日番谷隊長は少し困ったように笑って、そう言った。ワガママな子供を優しく見守るようなその眼差しがあたしを満たす。やっぱり隊長は笑った方が似合いますよ、あたしがそう言えば隊長はそうか?と聞き返し、それに対してそうですよとあたしが言うと、隊長はまた笑った。あたしも笑った
「そうかもな」
好き、だから譲れない
貴方があたし以外の他の誰かを一番に大切に想っていたとしても、あたしが貴方を一番に大切に想っているのは紛れもない事実。だから、あたしは願う。貴方に笑っていて欲しいと。あたしの一生分の幸せを貴方に全部差し出すことで貴方が笑っていられるならば本望だ。貴方の一生分の悲しみを全部引き受けて、貴方の幸せを一番に願おう。誰よりも強く、誰よりも真っ直ぐに
報われない恋をするんじゃなくて、恋をするから報われないんだと思う。だけど好きだと思ったら、もう『好き』と気づかなかったあの頃の自分にはもう戻れない。恋をしてしまった以上は報われないのを覚悟して、理屈抜きであの人を想う
願わくば、あの人が自分の分まで幸せでありますように
(苦しい、なんて今更だから微塵も感じないよ)