彼があたしの名を呼べば


「ただいま留守にしておりますのでピーとなりましたらお名前とご用件をお願いします」


と憎まれ口を叩いてしまうのです




「ピー」
「えーコホン、沖田です。土方の野郎にさんを連れて来いって言われたもんでしぶしぶ呼びに来たんですけど、留守みたいなんで失礼しやす。後でせいぜい土方さんに怒られてくだ」
「あああ総悟様ァァァ!!!ありがとうございます!!」


明らかに総悟が目の前にいるのに、留守と言ってしまったバカなあたしは総悟があたしの名前を呼んだ真意を知り、そそくさとどこかに行こうとする総悟の服を掴んだ。いきなりあたしに服を掴まれた総悟が「おっと」と小さく零して軽くよろめいたことに対しては別に悪いとは思っていないが、呼びに来てくれたのにこの反応はないなとさすがにあたしは反省しながら、よっこらせと立ち上がる(実は座っていた)「じじくせェ」とぼそりと総悟に呟かれたが、「せめて”ばばくせェ”に訂正してくれる?」と睨んでやった


「ばばくせェ」
「親切に訂正してくれてどうもありがとう」
「それって心こもってますかィ?」
「もちろんでございますとも」


総悟とこういう風に言い合いするのは悪くはないけれど(素直になれないあたしです)早く土方さんのところに行かないと。じゃないと、腹いせにまたあたしのドラ焼きにマヨネーズを大量にかけられてしまう(ドラ焼きにマヨネーズは合わないって何度も言ってるのに)もしくはあたしが大切にとっておいたオレンジゼリーまでマヨネーズの刑に合うかもしれない、とだんだんあたしの中で被害妄想が膨らんできたそのとき、手(厳密に言うと手首と言った方が近いかもしれない)を掴まれた


「え...」


誰かと思って振り返れば、あたしの手を掴んだのはもちろん総悟であって、よく考えればこの場にはあたしと総悟しかいないんだから当たり前のことだった


「何?」
「別に」
「じゃーこの手は何なのよっ」


ぐるぐると腕を回しても大繩みたいな状態になるだけで、思いっきり縦に振っても総悟の手はあたしから離れない。何がしたいのか本気で分からない、っつーか早く土方さんのところに行かせておくれ!あたしのドラ焼きとオレンジゼリーがマヨネーズの危機に曝されてるんだから。色気より食い気というお話かって言われても(実際言われてないけど)正直色気方面は苦手なんです。ほら今だって、掴まれた箇所だけやけに熱いんだって!このドキドキする恋愛特有の感覚は未だに慣れるもんではない


「だ、だから何っ?」
「......」
「な、な、何で無言なのよ。つーか、そんなに...」
「そんなに?」
「そんなに....あ..あたしを見つめんな、バカァァァ!!!」


もうダメだ。あたしという名の活火山は噴火した。つーか、あたしの顔を覗き込むように見るなっつーの。アンタ無駄にカッコイイんだよ、なんて口が裂けても言えないあたしはとうとう耐えられなくなって、ありったけの力を込めて総悟の手を引っ剥がす。それから総悟から乱暴に顔を背けて、あたしは土方さんのところに行こうと総悟が入ってきたときのままの半開きの襖を全部開け、部屋から出た。もちろん総悟がまだあたしの部屋にいるのを承知で、思いっきり襖を閉める。大きな音がして耳が痛かったけれどこれは自業自得。だけど、あたしの手に残る鬱陶しい熱はあたしのせいじゃない。アイツが悪いんだ

.....あーもう。まだドキドキしてるんですけど。ちょ、神様仏様アラー様、誰でもいいからアイツの無駄にカッコイイところを何とかしてください。あたしに対して可愛くない言葉を吐く時の無駄に生き生きしている表情もどうにかしてあげてください。お願いします。じゃないと、あたし、心臓持ちませんって。


「だーもう!」
「そんな怒ってばっかりいると、血圧が上がりますぜィ」


どかどかと歩いているあたしの隣にいつの間にか総悟がいて、気づけば一緒に並んで歩いてた。総悟はあたしを見下ろしながら、にやりと笑っている。くそー、何恋は盲目ってこのこと?明らかにバカにされてるのに何でこんなにときめいてるんですか、あたし。もしかしてMの気があたしにあるんですか。本当に勘弁願いたい


「アンタのせいでしょーが!つーか別に怒ってない!」
「へぇ?顔を真っ赤にし」
「うるさい。黙れ」


総悟の言葉を途中で遮り、あたしはぴしゃりと言い放つ。アンタに言われなくても顔真っ赤になってるのは分かってるっつーの。だけど可愛くない言い方をしてしまう辺り、あたしは根っからの意地っ張りなんだと思う。ああああもうちょっと可愛く言えるようなキャラでありたかった。くそー...っていうか、何で総悟笑ってんのさ


「な、何が可笑しいのよ」
がそんな反応するもんでさァ」
「は、反応?正当な反応だと思いますけど」
「理由は?」
「......総悟が手ェ掴んでくるから...バカ!あたしの心臓壊す気か」
「理由になってねェ。つーか、お前こそバカ?」
「何でそこで『バカ』っていう単語が出てくるわけ?」
「あれェ、気づいてないんですかィ。自分が何を言ってるのかよく考えてみなせェ」
「....?何よ」


あたしが何を言ったって言うの?意味分かんない。アンタこそバカじゃないの、とできるだけ伝わるような目で総悟を見てみると、総悟はその視線に気づいたのか口元を上げてあたしに笑ってみせた。それから総悟があたしに顔を寄せてきて...で何が起こったのかはとてもじゃないけど口で言いたくない。一気に体温が上がったあたしはそれこそ熱があるんじゃないかというくらい顔を真っ赤にして、頬を手で抑えながら、総悟を睨む


「〜〜〜〜っ?!」
「さっきから俺のことが好きって言ってるようなもんでさァ」
「あ!」
「違いますかィ?」
「〜〜〜〜〜っっっ!!」


あれ?あたし、コイツのことが好きだって言ったっけ?なんて頭に疑問符を浮かべるほどあたしは鈍くないので、その言葉ではっと気づいたあたしは今更ながら恥ずかしくなってくる。そうだよね、確かにバカだよね。本当に自覚がなかったなんて、あたしは救いようのないバカなのかもしれない。手を掴まれたくらいで心臓壊れそうになるなんて、その掴んだ手の主のことを意識しているからに決まってるじゃないの


「ち、ちが、違う!...こともない!」
「どっち?」


クッと人を小馬鹿にしたように笑うけど、気分を害されないのはきっとそれが総悟だからだ。だけど、それを認めるのは何だか癪で自分にMの気があることを認めるのと同じことになってしまうので絶対に言ってやらない(本当素直じゃないあたし)どっち?と聞く総悟に自分の好きなように解釈したらとそっけなく言うと、総悟はいきなりあたしの腕を掴んだ。そしてさっきより歩調を速めて、あたしを引っ張る。ああ、さっきも言ったけどあたしの心臓壊す気ですか


「な、何?総悟」
「今から土方さんに見せびらかしに行くんでさァ」
「そんな言い方やめて。恥ずかしいから。って、あ!つーか、あたしのドラ焼きが危ないっ」
「それは大丈夫でィ、土方さんにマヨネーズかけられる前に俺がソースをかけてやりやした」
「はあ?!大丈夫じゃないだろォがァァァ!!な、何してくれんのよォォォ?!こんのどS王子!」








夢中だってことは

分かっているよ








銀魂初は総悟君で。総悟君の喋り方難しいです。何か偽者っぽいですよね(オイ)とりあえず素直じゃないヒロインと総悟君のやり取りが書きたかっただけです



あたしのドラ焼きを返せー!