「やまざき!」
「は、はい!」
「...す、すす、す」
「巣?」
「す、す」
「酢?」
「す...スイカの季節は終わっちゃったね...!」
「え、あ、うん。そうだね」





例えば大好きな人ができたとして。すると、好きだから『好き』と大好きな人に伝えられる人間と好きだから『好き』と大好きな人に伝えられない人間の大体2種類に分けられる。あたしはというとTPOによるといういわゆる例外なのだが、あえて分類されるとしたら後者だろう。...すみません、やっぱりもう潔く白状します。あたしは間違いなく後者です、ハイ。TPO云々と言ったのはただの見栄っ張りです。みんなが寝静まった夜中、涼しげな風が吹く静かな屯所の縁側、大好きな人と2人っきりというシチュエーション、まさにこの上ない絶好のチャンス。TPOを完璧に満たしているというのに、大好きな人に『好き』だと言えないんです。何故かスイカの話になっちゃいました



っていうか、あたし。コレはないだろ、コレは。『好き』という二文字から何でスイカの話になるのよ。意味分からない、あたし。いや、もっと意味分かってないのはあたしじゃなくていきなり突然スイカの話をされた山崎の方なんだろうけれど



それでも普通に頷いてくれる山崎が好きだ。今日は仕事がオフで少女漫画を一日中読み耽っていたところ、主人公の女の子にどうも感情移入しちゃって切なすぎて夜寝れなくなった(馬鹿なのは承知)(でも痛いほど気持ちが分かるんだよ、南ちゃん)あたしに、仕事で疲れているのにも関わらず付き合ってくれているお人好しなところが特に好きだ。......好きなんだけどスイカの話になるんだな、これが。笑うしかないよ、ホント





ってスイカ好きだったんだ?」





......ホント、笑っていいですか?マジで。っていうか、逆に泣きたくなってきた。山崎に『好き』だと伝えたかったはずなのに、何故か山崎が知ったのはあたしの気持ちじゃなくてあたしがスイカ好きだということ。......いや、別にスイカは好きでも嫌いでもないんですけど、と本音を言いたかったが...自業自得ですよねー。心の中では半泣きになりながら、あたしはにこっと笑った





「うん。そーなの、だからすごく残念なんだよね」
「じゃー来年の夏はスイカ割りしに行こうか」
「も、ももちろん!」





おおっ、スイカが思わぬ方向に転がった。あながちスイカの話をしたのは間違いじゃなかったじゃん!随分遠い話だけど一緒にスイカ割りできることになっちゃったよ。スイカ様様だよ、まったく。ヤバイ、これは嬉しすぎるんですけど!あたしは嬉しさのあまり、隣に座っている山崎の袖を掴み「約束ね!」と真剣に言うと、山崎は「うん、約束な」とへらりと笑った



......山崎ィ、笑顔は反則って知ってるかい?いや、たぶん知らないんだろうなあ。山崎だもんなあ。ああ、好きすぎる。好きすぎて...今なら言えるかもしれない





「や、山崎!」
「え、あ、何?急に怖い顔して」
「あ、あの...っ」
「?」
「す...すっ」
「素?」
「すす...す..あーもう!やだ、あたし!」
「はい?」





......言えると思ったんですけどやっぱり無理でした。あたしって本当チキンハート。本当やだ、自分。何が何だか分かっていない山崎をよそにあたしはがっくし肩を落として、それは大きなため息をついた。...ああ、南ちゃんもきっとこんな気持ちだったんだ。『好き』というたった二文字が言えないことって何だか苦しいよね。溢れ出しそうなくせに言葉に出来ないなんてもどかしいよね



大好きだから『好き』と言えないけれど、やっぱり『好き』って伝えたいよね





「......山崎?」





そんなことを考えながら軽く自己嫌悪していると、山崎があたしとの隙間を埋めるように近寄ってきたので、どうしたのかと尋ねようとしたところ、肩をそっと掴まれた。山崎の温かくて優しい手はあたしに山崎の身体にもたれかかるよう促す。不意打ちの優しさに、え、ま、マジですかと心臓がバクバクいってるのだが、こんな乙女的シチュエーションは滅多に味わえるもんじゃない(欲求不満か、あたし)意を決したあたしはその優しさに甘えて山崎にもたれかかってみると、山崎は案外逞しかったんだと気づく。そしたら急に山崎を男だと改めて意識しちゃって、自分が女だと改めて思い知らされた



肩が溶けそうなくらい熱い





「...何があったのか知らないけど...元気出しなよ」
「...え...?」
「俺、できることなら何でもやるし何でも聞くし」
「え、あ、うん」





静けさをそっと破るように山崎の声があたしの耳に響く。やさしいこえ、やさしいことば。素直に嬉しいのもあるけれど(ああ、何でそんなに優しいの!)少し勘違いされているっぽくて少し焦った。いや、ただ単に山崎に『好き』と言えないだけで、あたしは別に落ち込んでいるのではなく(いや、落ち込んでるけれど大したことはないという話)山崎が本気で心配する必要はどこにもないのだから



や、心配してくれるのはものすごく嬉しいよ、ていうか嬉しすぎる。だって、あたしは山崎の中では心配してもらえるような価値のある人間なんだから、嬉しいに決まってる。でも何か申し訳なさを感じずにはいられなくて、あたしは「別にそんなことないよ」と言おうとして口を開いてはみたが、やっぱり口を閉じた。だって、あたしが言いたいのはそれよりも





「ありがと。...好きだよ、山崎」
「うん。...って、え?」
「大好き」
「え、あ、うん。...え?」





言いたいことを優先したら、不思議と言えた『好き』って言葉。思ってたよりもシンプルで、全然難しくなかった。さらりと言えちゃったよ、山崎に『好き』って



......やればできる子じゃん、あたし。うん、実はそう自分でも思ってたんだよね、なんて。だけど心から手を振れるよ、グッバイ、チキンなあたしって。言えたよ、山崎に好きって言えた。うわ、恥ずかしい。顔が熱くて溶けてしまいそう。だけど、幸せ。どうしようもなく幸せすぎるんですよ、これがまた。好きと口にしたらますます山崎が好きになっちゃったよ





「...マジですか?」
「マジですよ」
「...あーマジですか」
「マジなんですね、これが」







カミングアウト!
(いや、元々前から好きだったんだけどね。思いを初めて口にしたという意味ね)









「あの.....聞かなかったことにしていいですか」
「何、青少年。現実逃避するっていうの(っていうかこれは遠回しに拒否してるの?)」
「や、そうじゃなくて。...そーいうのってさ、やっぱ男の口から言いたいじゃん」
「!!(照れてる山崎もいい...!)」
「あーもー何言ってんだろ、俺!」


「好き」というまでのお話が書きたかったので中途半端。お人好しな山崎に優しくされたかっただけです(コラ)


「好き」って誰かに言えることってきっと幸せなこと。そしてそれを受け止めてくれる人がいるっていうことはもっと幸せなこと



と、とにかく俺が言いたいのは俺も好きってこと!