もしお伽話のお姫様になるとしたら


あたしは迷わず眠り姫を選ぶ。何故かって?そりゃあ一番おいしい物語だからですよ。だってシンデレラは最終的にハッピーエンドだけれども継母や義理の姉の奴隷のように毎日働かされていたわけだし、白雪姫だって持って生まれた美貌のせいで義母に恨まれて逃げることを余儀なくされたりして。あとおやゆび姫は色んな動物に攫われて大変な思いをしただろうし、かぐや姫は月に帰っちゃったし。つまり何が言いたいのかというと眠り姫は一切大変な思いをしていないということだ。そりゃ糸紡ぎ機?みたいなので刺されて少しは痛い思いはしただろうけど、ただ眠っているだけで王子様がやってきてくれたじゃないですか。しかも超イケメンの。羨ましすぎる、待ってるだけで素敵な人が迎えに来てくれるなんて。それがあたしが眠り姫を選ぶ理由

だけど現実はお伽話とは違い、いくら素敵な人が迎えに来るのを待ってみても来る様子なんて全くないので


「切ないー」
「......あのもうそろそろ部屋に戻ってもいい?」


あまりの切なさに自分の部屋に同僚の山崎を無理やり連れてきて、無理やり話を聞いてもらいました。そりゃあ山崎には少しは悪いと思ってる。仕事から疲れて帰ってきたところを強制的に拉致ったのだから。だけどとにかくこの胸の内を聞いて欲しかったんだよ。で、もっともっと聞いて欲しいんだよ。同じことの繰り返しだけど。そういうわけなので、呆れ顏でため息をついた後よっこらせっと立ち上がって自分の部屋に戻ろうとする山崎の足にしがみつく


「うわっ、ちょ、離せって」
「いやー!この状況で1人にさせるとか鬼だよ!」
「いや!この状況で2人でいさせる方が鬼だよ!」
「山崎冷たいー」
「あーもう分かったから!」


でも何だかんだいって山崎が優しいってことはちゃんと知ってる。あたしがぱっと足を離せば、山崎は観念したように先ほどのところに座り直してくれるし。何だか嬉しくなって、あたしは山崎との距離をつめてみる。何?と尋ねる山崎は本当は疲れているのを隠してあたしに柔らかい視線を向けた


「山崎はどんなコがタイプなの?」
「何だよ、いきなり」
「女中の美和さん?それとも時々やってくる薬屋の佐代里ちゃん?」
「あー...まぁ確かに美和さんは美人で佐代里ちゃんは可愛いと思うけど」
「え、違うの?」
「俺のことはどうでもいいけど、の方こそどうなんだよ?」


待ってました!と心の中で言いながら、読んだままその辺に置きっぱにしていた漫画を手にとり、じゃんと山崎に見せる。もちろん見せるのはあたしの憧れの王子様聖人君。解説しよう、聖人君とは今江戸で大ブームを引き起こしている少女漫画(と書いて乙女のバイブルと読む)『勝手にブルースプリング』のヒロインの相手役、つまりヒーローなのだ。すらりとした長身、完璧な王子様フェイスに完璧な紳士的な振る舞い、まさに非のつけどころがないお方で。あたしはこんな人が現れたらいいなと本気で願っているんだけど


「...」
「あ、今山崎さーあたしのこと馬鹿だと思った?」
「...や、まあ別に止めはしないけど」
「山崎完全にひいてるよね」
「べ、べつに」
「いいじゃん夢見たってェェェェ!!」
「ちょ、うあ、いてててギブギブギブギブ!!」


聖人君はカッコイイんです。だけど二次元なのは知ってます。それでも...夢くらい見たって別にいいじゃないですかという自己主張を込めて山崎を羽交い絞めすると、山崎はいとも簡単にギブアップを宣言。の圧勝、だけど全然嬉しくない。こんなんだから男がいないんだと自覚しているあたしは少し凹みつつ、山崎を解放。山崎はとても疲れていて、あたしをじとと睨む


「...つーか何でが凹んでるんだよ?」
「山崎に勝てるから」
「何でだよ。ムカツクなこんにゃろう」
「いいの、分かってる。こんなんだから男が寄ってこないの。あたしには心のオアシス聖人君しかいないの」


そう言ったら、また山崎がコイツ馬鹿だという目であたしを見てきたが巴投げをする気も起きないくらい思ったよりも自覚したことで凹んでしまっていた。ああああまた切なさの波が襲ってきた。本当今すぐにでも白馬の王子様があたしを迎えに来ないかなと本気で思うのは何よりあたしの頭がやられてしまったという証拠


「そりゃ寄ってはこないだろうけど身近に二枚目な人はいるじゃん」
「どういう意味ソレ」
「ほら、例えば沖田隊長とか」


ええ寄ってきませんよ、って言わせんな馬鹿山崎!さっきのことを根に持っているのだろうか、ほんの少し悪意が感じられたので睨み返してやったが、普通にスルーされた。...でも確かに沖田隊長は二枚目でカッコイイとは思うね。聖人君と似ていなくもない。だけど


「あたしMじゃないから無理」
「何それ。じゃあ副長」
「あたしマヨネーズ控えてるから無理」
「意味分かんないんだけど。...んじゃ、近藤さん」
「何か暑苦しい」
「ワガママだな、オイ」
「妥協は許せないタイプなんです」


あ、今山崎が呆れた。心の底から呆れているように見えた。こうなりゃ何とでも言えと開き直ろうかな。うん、開き直ろう。なので「だから無理なんじゃね?」と哀れみを込めて言う山崎に「知ってるよ」と躊躇なく返す。あ、山崎が盛大なため息を吐いた


「俺、もう疲れたから寝るよ」
「いーやーだから何でこの状況で1人にさせるのー!?」
「明日早いし」
「それあたしもだもん」
、今日仕事上がるの早かったじゃん」
「山崎、部屋に帰っちゃやだー!」


なんてワガママなんだろう、あたし。自分でも分かってるくらい山崎にワガママ言ってる。あたしの自己中な発言に対して山崎は困ったように頭を掻く。あたしはそれをじっと見つめる、山崎がコホンと咳を1つしたのも、何か意を決したようにあたしを見る目も、と名前を呼んでこっちに来てと合図するように動く手も。もしかしてモノで釣ろう作戦か?と思いつつ、ひっかからないぞビックリマンチョコレートじゃない限りと警戒しながら、あたしは膝を立てて山崎に近づき、目の前で正座をした。山崎は黙り込んでいる。何?と首を傾げながら山崎の顔を覗き込んでみると、不自然にあたしから目を反らす

え、山崎どうしたんだろう?

訳が分からない。「」と名前を呼ばれて「はい?」と返事をしたけど...山崎はそれ以上何も言わなかった。何故か落ち着きのないように見える山崎をしばらく観察していたが、ビックリマンチョコレートをくれる気配もないしさっぱり分かんない。それに何だかこの沈黙が気まずくて、どうしたの?ととりあえず聞こうとしたら、肩に何か少しだけ重みを感じた。え、何と顔をあげたら思ったよりも山崎の顔が近くにあって。本当にとても驚いたのだが、逆に驚きすぎて声が出ない。ちらりと斜め下に目線をやればあたしの肩に置かれているのは山崎の手であることは理解できた。再度真っ直ぐに山崎を見てみると何かいつにもなく真剣で何気に顔が赤い。頭が上手く回らなくて今どういう状況なのか処理できず、瞬きすら忘れるほど山崎の顔を凝視していたら、少しずつだけど...近づいてきてる?ような気がして。もしかして、と思ったら急にドキドキしてきた。いやいやまさかねと思う自分がいる反面、でもやっぱり顔が近づいてきてるからやっぱり?と思う自分もいて、あとまさか山崎ってと思い上がっている自分もいて頭の中が混乱してきて尚更ドキドキが激しくなった。いや、そんな可愛らしいものじゃない。心臓が突き破って出てきそうなくらいバクバクいってて。山崎の呼吸が肌で感じ取れるくらいまで近くなったときはもう心臓が張り裂けて死んでしまうのではないかと本気で思うくらい

それなのに山崎の唇が触れたらどうなるの?あたし


「うわあああ、ごごごごめん。何やってんだ俺!あああ順番しくった!」
「え、あ、うん」


だけど僅か数ミリといったところで山崎が我に帰ったようにあたしから飛び退くように離れた。さっきまで肩に置かれていた温もりが遠くなる。慌てたようにあたしに謝る山崎の顔は真っ赤で、だけど山崎のことを笑えないくらいにあたしの顔も真っ赤なんだろうなと分かるくらい顔が熱くて。一体何が起ころうとしたんだろう?うわ頭が回んない。あたしのエネルギーを全て心臓を動かすことに使っちゃったからなのかもしれない。山崎がもう部屋に戻ろうと立ち上がったのは分かったけど、さっきみたいに足にしがみついて引き止められなかった


「あ、あのさ、
「え、な、何?」
「えっと、その...分かっただろ?」
「な、何が?」


もちろん山崎の顔が見れるわけもなく。山崎、言ってくれないと分からないよ。だってあたし、さっきまで切ないとかほざいてた奴なんだから。山崎だって認めたじゃない。あたしに男は寄ってこないって。だからあたし聞き返すよ。...このままじゃ自分の都合の良い風に解釈してしまうから


「あーもうとにかくも疲れてるんだから眠り姫みたいにぐっすり寝なよ。お、おやすみ」


そう言って障子が開いて、バタンと閉まる。その時山崎がぼそっと障子越しに何か言ったのが聞こえてしまって。足音がだんだん遠くなってく。離れてく。小さくなってく。でもまた数時間後には近づいてくるんだと気づいてしまえば、あたし...もう寝れない。眠り姫に憧れていたけど眠れないってどういうこと?矛盾だ、矛盾


ねえ、眠り姫。貴女はどんな気持ちで王子様を待っていたの?










眠り姫になりたい
  あたしの王子様って案外近くにいた...の?  










最初は総悟君でしたけど、何故か山崎君になっちゃいました。とある友人が「眠り姫だけさー何もやってなくね?」と熱く語っていたのを思い出して書いてみました。ちなみに時代が錯誤ったのは空丘の痛恨のミスです。銀魂と眠り姫のありえない組み合わせ





( 『待ってて』って...うわこれはもしかしてまさか...!! )