あたしには真剣に困っていることがある




どうしたらいいですか。未だかつてこんなに愛されたことがないんです




「ただいま帰りましたー」


特売日のスーパーという名の戦場から無事必要物資を手に入れ、帰還したあたしは疲れたようにそう言って玄関で靴を揃え、それから廊下を歩いてリビングへ繋がるドアを開ける。その時何故か嫌な予感がしたのだが特に気にせず何気なく最初の一歩をリビングに踏み入れると、まさかそこにいるとは夢にも思わないような人物がそのまさかでそこにいることに気づいて絶句。思わず持っていたスーパーの袋を落としてしまった


「おかえり、


驚きのあまり言葉を失うあたしを知らずか、その人物はずっと待っていました的な感じであたしを迎える。あたしはまだ思考停止をしたままで、ただいまと言える声すら出ない。...ああ、本当何でここにいるの?


「おー、今帰ったか。


軽くパニックに陥っていると、後ろからポンと肩に手を置かれて思わずビクっと肩を震わせる。それからおそるおそる後ろを向いてその手の主を確認すると、それはいつの間にあたしの後ろにいたのかは分からないけれど銀さんで。あたしが落としたスーパーの袋を普通に拾い上げ、中入れよとあたしに言う。そんな銀さんに言いたかったけれど言葉にならなかったので、とりあえず表情で伝えようと銀さんを真っ直ぐに見た。それで通じたのか、銀さんはああと短く思いついたようにあたしに言う


「何でヅラがここにいるのかって?」
「ヅラじゃない。桂だ」


お決まりのセリフが聞こえてきて軽く泣きそうになりながら、あたしは大きく何度も頷く。そう、どうして桂さんがいるの?...いや、別にいちゃ悪いってわけじゃないんだけど、でも。...気まずいんですよ、どうしようもなく...!そう色々葛藤しているあたしにその答えを述べてくれたのは銀さんではなかった


に会いに来たんだ」


...脱力。思わずへなへなとその場に座り込んだあたしに「急に会いたくなったんでな」と追い討ちをかけるように桂さんが言う。床はひんやりとしているのにあたしの顔は逆に熱くなっていく。...ああ、どうしてそういうことをさらりと言うかな。言われたこっちもすごくすごく恥ずかしいんですけど...!ここ最近の桂さんは正直言って苦手だ。最近っていっても本当にこないだからなんだけどね

桂さんに好きだと言われてから


「ほらほらそんなトコに座ってねーで、座るんならソファーに座れ」


あたしの様子を見て面白いのか何だか分からないが、ちらりと見た銀さんは笑いを堪え切れてない顔でそう言ってあたしの腕を掴んで立たせる。どうにかして下さいと小声で呟いてみたもののまだ赤みの残っている顔をあんまり見せたくなくて俯いたからかその助けを求める声は銀さんには届かない。あたしは銀さんに連れられるまま、桂さんが座っているソファーの向かいに腰を下ろす。銀さんはスーパーの袋を持ってキッチンに入っていった。急に2人きりになった空間が気まずい。目線をあまり上げられないし、それに...ああ、何だか手に変な汗かいてきた


「どうした?具合でも悪いのか」


そんなに目で見て取れるほど変な顔をしていたのか、桂さんがあたしを覗き込むようにして尋ねる。いやそれは貴方のせいじゃないですかと言いたかったが、何も分かっていない桂さんはどうせこれも分からないだろうと思って首を横に振る。桂さんが思っている具合は悪くはないけれど、違うところが具合悪いのは本音だけども


「それならいいんだが。...それにしても...」
「は、はい。何ですか?」


それにしてもあたしが何、思わずやや上に目線を移動してしまったら桂さんと目が合ってしまったので慌ててまた目線を戻す。何であたしが目を反らさなきゃいけないんだろうと思ってみたりもするけれど、反らさなきゃヤバイことになる


「お前がそこにいてくれるだけで良いもんだな」
「ええええいきなりなななんですか!」


ギブアップです、マジで。何も言えません。ってか、どうしてそうなるの?お願いしますから空気読んで下さい。ある意味殺し文句だよね、コレ。本当にどうしてこんな言葉が自然と出てくるんですか。信じられない。信じたくないくらい今顔が熱い。火が出そうと言っても過言じゃないくらい尋常じゃないんですけど...!


「あああああの!お茶、飲まれますか?!」
「いや、さっ」
「飲みますよね!待ってて下さい!今注いできます!」


もう限界だと悟ったあたしはすくっと立ち上がり、桂さんの言葉を遮って勝手に決めつけ、一刻も早く桂さんから離れようとキッチンに逃げ込む。ぴしゃりと扉を閉めて、それにもたれながらズルズルと下に座り込んだ。...ああ、ありえないくらい鼓動が乱れてる。深呼吸、深呼吸


「またヅラに何か言われたか?」


そんなあたしに声をかけるのは先にキッチンに入っていた銀さんだ。どうやらあたしが買ってきたものを冷蔵庫やら何やらに片付けてくれたようだった。ケラケラとおかしそうに笑う銀さんを睨みつけるようにしてあたしは目線を上げる。...うう、こんなのある種の拷問じゃない


「笑い事じゃないですよ!銀さん、お願いですから桂さんを元に戻してくださいー」


そう、前の桂さんならあたしはこんなにも苦手意識を抱かなかった。むしろ好印象で、本当に指名手配されているのかというくらいいい人だった。優しくしてくれたり、お菓子を持ってきてくれたり、話を聞いてくれたり......いや、それは今でも変わってないんだけどね。確かに今も優しいし、話だって聞いてくれると思う。そうなんだけど....

やっぱり違うんです


「そんなの俺に言われたってどうしようもねーよ」
「ですよね...」
「つーか、ヅラをあんな風にさせたのはお前だぜ?」


はあと大きなため息をつくあたしにさらなるダメージを加えるように銀さんは言う。...いや、いや、いや。あたしのせいじゃないでしょう。...あたしのせいだ、なんて自惚れちゃいけないよね。うん、あたしのせいじゃない。絶対あたしのせいじゃない


「元から頭は空だが悪化させたのはお前だ。
「違います!ってか桂さんは本気じゃないでしょう?あたしのことが好きだ、なんて...そんな...」


あたしのせいじゃないと何度も言い聞かせているあたしを否定するようなことを言うので、まだ大人になりきれてないあたしは銀さんにムキになったように言い返した...のはいいんだけど、墓穴を掘った感じ。桂さんがあたしのことを好いてくれてる、だなんて口に出すと何か改めてキツイ。いや、今のは自業自得なのは分かってるんだけど、自分自身が口に出した言葉に勝手にダメージを受けてしまった。あああと言葉にならない声を出しながら立てた膝の間に顔を埋めるようにして俯く。するといきなり後ろのドアが開き、思わず肩をびくっとさせて振り向いた。銀さんが出て行ったのかと思えばそうではない


「かかか桂さん!?」
「言っとくけど俺は本気だ」


ドアを開けたのは桂さんであたしの真後ろに立っていて、もしかしてさっきのあたしが言ったの聞かれてたのかと疑いようがない桂さんの言葉に頭を殴られたような衝撃を受けた。痛い、泣きそうだ。泣きそうなくらい真剣な顔で桂さんはあたしを見下ろすもんだから、本当にどうしようかと思う


「俺はのことが好きだからな」


桂さんは気づいてない。あたしがこんなにも居た堪れなくなることを。別に好かれるのが嫌なわけじゃなく、むしろ嬉しいんだけどそういう『好き』の形を桂さんからもらうとどうしたらいいのか分からなくなる。そんなあたしはその言葉にどう返せばいいのかもちろん分かるはずがなかった

どうしようもなく心臓がバクバク言ってて、どうしようもなく顔が熱い。どうしようもなく泣きそうで、どうしようもなく息が詰まる


「あ...あ、りがと、うございます...」


何とか声を振り絞って、とりあえずお礼を言う。さっきまで見上げてたけど、桂さんの顔が見れない。っていうかこんな顔を見せたくなくて、あたしは桂さんから目を反らした。乱れた呼吸を少しでも落ち着かせようと深呼吸をしようとしたら、いきなり腕を掴まれ、気づいたときにはあたしは立ち上がっていた。驚きで思わずまた桂さんの方へと視線を戻す。桂さんは何事もなかったかのように小さく笑う


「散歩でも行かないか。気分転換に」
「......え」


...いや桂さんにとっては気分転換になるとは思うんですけど...散歩って桂さんと2人で、ですか?いや、あたし気分転換どころかもう死にますよ。これ以上あたしのリズムを乱さないで下さいという意味を込めて桂さんを見たのだが「今日は天気がいいからな。絶好の散歩日和だ」とのん気にそんなことを言う。軽く抵抗してみたのだが、桂さんには全くと言っていいほど影響はなくあたしの腕を掴んで、玄関の方へと歩いていく。あたしは桂さんに引っ張られるまま足を動かす。...どうしよう、困ったあたしは銀さんに助けを求めようと思ってちらりと後ろを向いた。丁度銀さんがひょっこり顔を出して、いってらっしゃいと口パクであたしにそう言いながらひらひらと手を振ったのが見えたので絶望という二文字が頭に浮かぶ


「どうした?散歩は嫌か?」
「い、いえ!いやじゃないです...!」


......でも、桂さんにそう言われて断れない自分もいちゃったりするんです




テキーラに恋をして

( どうしたらいいのか誰か教えてください )


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呆れる程桂さんに愛されよう!というのをコンセプトに。『Lovely gemstorn』の続きだと思ってくださればよろしいかと。これを読んで馬鹿馬鹿しくなった方、それが正しい反応です。ですが、空丘もダメージを受けながら書いてますのであまりつっこまないでやってくださ...!