確かにそう言ったのはあたしだけども





だってそこまで真剣に受け止めてくれるなんて思ってもみなかったんです




「......あの」
「何だ?」
「かなり今更な話なんですけど...」
「?」
「昼間にこんなおおっぴらに歩いてていいんですか?」


ふと疑問に思ったことを口にした時間帯は真昼間で、あたしの買い出しに付き合ってくれている桂さんは特に顔を隠すことなくあたしより重い荷物を持ってくれて、あたしの隣を歩いてる。確かにこの前も特に気にする事なく桂さんとお散歩したけれど、先日の真撰組に見つかって追い掛けられた事件のことを考えると今こうしてあたしの隣を歩いてる桂さんは本当に大丈夫かなって思ったわけで。当の桂さんはあたしほど危険だと認識しておらず、首を傾げた


「何故だ?」
「いや、だって真撰組に見つかったりしたら......」
「大丈夫だ。俺を誰だと思ってるんだ」
「そうですけど......でも」


確かに桂さんは今まで幾度も真撰組の追跡を逃れてきたわけで、それは重々承知してるんだけど......でも万が一のことがあったら。そう考えると何か心配になってきて、躊躇いがちにちらりと桂さんを見上げても、桂さんは頭にクエッションマークを浮かべていて全然伝わらない。なので思い切って言葉に出して言ってみた


「......桂さんに捕まってほしくないです」


あたしが言った言葉に桂さんは少し驚いたように目を開く。それからすぐにその顔を戻し、コホンと咳を一つしてあたしから目線を反らした。反応は特にないけど、でも何故かその横顔が照れ臭そうで......え、あたし何かそういうこと言ったっけと思わず考えてしまった


「心配させてすまない。今度から気をつける」


だけどそう言って桂さんが軽く笑ったので、別にいいやと考えるのをやめる。そうしてください、とあたしが念押しするように言うと桂さんは大きく頷いたのを見て、何だかほっとしてあたしも小さく笑い返した







.........のは良かったんだけど







「.......」



次の日、あたし単独の万事屋のお仕事で人手の足りない甘味屋のヘルプに行っていたわけなんだけど、その仕事が終わって帰ろうと店から出たところに桂さんが現れた。何でここにいるんだろうと最近はそれにも驚かない。銀さんから聞いたのかどうか分からないけれど桂さんがこうして迎えに来てくれるのは最近では珍しいことではないし。......でも何か海賊の格好をして迎えられたらさすがに驚くのも無理ないという話。思わず持っていた荷物を落としたあたしの反応は間違ってはいない。確実にそう言える


「あ、あのー桂さん」
「桂じゃない。キャプテンカツーラだ」


しかも意味分かんないんですけど......!や、海賊の格好してるけど桂さんだよね?エリザベスの顔がかいてある眼帯もしてるけど......やっぱり桂さんだよね?え...ああ、え?何か混乱してきた。そんなあたしに桂さんは何事もないようにあたしが落とした荷物を拾ってくれて、「さぁ、帰るか」とさらなるあたしの混乱を招くように反対の手を差し出した。......ええええ手を繋いで、ですか。恋人同士でもないのに?マジですか。や、別に嫌じゃないけど必要性を感じないのも事実なので桂さんの顔と手を交互に見ながら戸惑っていると、桂さんの手があたしの手を捉える。何だか叫びたくなったけど心の中でそれを抑えて、引っ張られるようにして桂さんの後に続いて歩いた


「こんな時間に女子一人で歩かせるのは危険だからな」
「...あ、ありがとうございます」


人気の少ない道を二人で歩いていると、桂さんは急にこんなことを言う。確かに今はすっかり日が落ちて昼間の青さをなくした空は真っ暗で、こんな時間帯の江戸は物騒だ。だから桂さんは何気なしにそうさらりと言ってのけたんだろうけど、『女の子』としてあたしのことを扱ってくれてるのかと思うと、何だか......ああ言葉に表せない程の恥ずかしさを覚える。いや、確かにあたしは女で男だとか思われたら困るわけだけども。......はい、正直に言います。桂さんがそういう風にあたしを見ているのかなって勝手に自惚れただけです。自意識過剰すぎるんです、あたし

ああ、もう


「あの、桂さん」
「今は桂ではない。キャプテンカツーラだ」
「...ていうか何で海賊の格好を?」


話題も何もないくせに何か沈黙が苦しくなってきたので桂さんに話しかけようと名前を呼んだらまた先程と同じことを返された。どうしよう、と思いつつあたしは咄嗟に思った疑問を口にする。今は人がそんなにいない時間だから良かったものの、昼間にこうやって歩いたらある意味目立って好奇の的になることは言うまでもない


「この前に言われたんで、今日はこうやって変装してきたんだ。これなら真撰組の奴らも俺だと気付くまい」


桂さんの言葉を聞いてはっと思い出す。......そういえばあたしが言ったんだ、外歩くときは気をつけて欲しいって。だから桂さんは気を遣ってくれて......。あたしの言葉を素直に受け止めてくれたのは嬉しいんだけど、すごく複雑だ。 確かにこれだと桂さんだと気付かれな......いこともないよね。思ったんだけど、この変装じゃよっぽどの鈍感じゃないと気付かれちゃうかもしれなくないですか


「どうかしたか?」
「い、いえ」


でもあたしの為にこうしてやってくれてるのにそんなこと言えなくて、あたしは笑ってごまかした。今は夜だし大丈夫。薄暗いから顔とか分かんないし。それに何かあったらあたしが何とかできる範囲だよ。うん、大丈夫。あたしはそう言い聞かせて、とりあえず一緒にいないことにはあたしが助け舟を出せないわけだしと桂さんの手を強く握り返した


「......?」
「え、あ、いや、えっと、あの、つ、月が綺麗ですね」


やはりあたしのその行動を不審に思ったのか、桂さんがあたしを見下ろすように見たので、あたしは咄嗟に無理矢理話題を変える。そして自分で言って初めて気付く、月の美しさ。今夜は満月だったんだね。ふんわりと柔らかな光を纏う月を見ると、何だか心配しなくて大丈夫だよって言ってるようで少し気持ちが落ち着いた気がした


「そうだな」


だけどそう言った桂さんの横顔が綺麗すぎて月よりも印象的で。......そういえば桂さんって女の人みたいに綺麗だよね








......と改めて思ってたんだけど









「あ、は......い?」


あれから翌々日のお昼過ぎ、お登勢さんの店の前をそうじしていたあたしの名前を呼ばれて顔を上げたところ着物を着た綺麗な女の人が立っていて、わぁこの綺麗なお姉さんって知り合いだっけと軽くテンションが上がったのだがよくよく考えてみれば。先程あたしを呼んだのは男の人の声だし、よく顔を見ると.........ええええもしかして


「かかかかか桂さ」
「違う。ヅラ子だ」


いやいやいやいや桂さんですよね。明らか桂さんですよね。ちょっと待って下さい、ヅラ子って何なんですか。女装名ですか。いや、何でこんなところにいるんですかという以前に何で女装をしてるんですか。しかも化粧もしてますよね?など色々言いたいことがありすぎてまとめることができず、最終的に行き着いたのが


「女のあたしよりも綺麗とか狡くないですか」
「違うだろ」
「いたっ」


だってだってだって桂さんの方が明らか美人さんだし、あたしが持っていない色気もあるし。何か女として自分が情けなくなったあたしの頭を叩いたのは誰?や、桂さんじゃないのは分かってる。だって後ろから叩かれたし。......じゃあ誰だろう?と思って振り返って見れば


「銀さん、いつの間に!?」
「お前もっとヅラに言うことあるだろーが」


銀さんが呆れ顔であたしを見下ろしていて、いつのまにここにいたんだろうと思いながら叩かれた箇所を手で押さえつつ、あたしも銀さんを見上げた。でも確かによく考えてみればあたしが思ったのはどうでもいいことで、じゃあ他に桂さんに言いたいことって.......


「そうだ、どうして桂さんが女装を......?」


あたしがそう恐る恐る口にした疑問に銀さんが大きく頷いたので、ああ銀さんが言うべきだと思ってた言葉はそれだと分かり、それから桂さんの方に向き直す。やっぱり今の桂さんはどこから見ても綺麗なお姉さんにしか見えないし、桂さんが女装をする理由も見つからない。桂さんはさも当然というようにきっぱりと言った


「女の格好をすれば気付かれないだろうし、と一緒にいてもおかしくない。正に一石二鳥だ」
「......え」


ちょっと待ってください。またあたしが言ったことを気にしてくれてたんですか?それは確かに海賊の格好よりも女装してる方が見つかりにくいかもしれない。あたしと歩いていても違和感ないのかもしれない。だけど、それ以外の理由もあることを知ったあたしの心臓はいきなりバクバク言い出した。ああああと心の中で言葉にならない叫びをあげながら、それにと付け加えるように言った桂さんの言葉の続きを待つ


を守るのに都合がいいしな」
「はい?」
「......あーお前にはまだ言ってなかったな」
「え、何ですか?」


桂さんの言葉の意味が分からなくて首を傾げているあたしに銀さんは思い出したようにそう言った。え、何だろうと思ってると肩に手を乗せられる。そして銀さんが笑いを堪えるように思えて何か嫌な予感がした


「今日、急にお妙が行ってるスナックの人手が足りねーみたいだからに手伝ってほしいってさ...んで」


そう言って言葉を切った銀さんがちらりと横目で桂さんを見たので、あたしもつられてそちらの方を見る。......あれ、もしかして。何か本格的に嫌な予感してきたんですけど


「そんな嫌な男が来る店にを一人で行かせたくないらしくてヅラも行くと言ってきかねーんだ」
「ヅラじゃない。桂だ」
「......ええええええ」


(続き)ええええええマジですか。ちょっと色々ヤバくないですか?




テキーラに恋をして

( あれ、でもちょっと嬉しいと思った?自分 )


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かまっ娘倶楽部のお話で桂さんの女装にあまりにも色気を感じ、妄想がヒートアップした空丘の暴走が垣間見えるお話です(痛い)...え、そう思うのは空丘だけですか、そうですか(・・・)とにかく次に続きます(尚更痛い)