大変なことになっちゃいました

あたし、そこまで乙女的展開を期待してませんでした。...本当ですよ!
今までお妙ちゃんが行ってるスナックのお手伝いは何度かしたことがある。というのはスナックといっても実質はキャバクラみたいなものでそんなお仕事は男の銀さんや新八君ができるはずもなく、かと言って神楽ちゃんは女の子だけどまだそういう年じゃないので必然的にそれなりの年のあたしが引き受けることになるわけで、大体仕事内容は知っていた。もちろんそれはできるできないの話じゃない。正直あたしはこういうお仕事向いてないと思うし、場違いな気がしていたたまれないし、何か知らない男の人と喋るのは得意じゃないことが1番の原因だ。なので毎回自分のことでいっぱいいっぱいなのに今回はそういう訳にもいかなくて
「......桂さん、くれぐれもバレないようお願いします」
「桂じゃない、ヅラ子だ」
「や、だからせめて桂子にして下さい」
そう、今回は何故か桂さんが一緒なのだ。どうして桂さんが女装してまであたしについてきてくれた理由はあえて考えないようにして、とにかくあたししかこの状況を打破できる人間はいない。幸いあたしの友達だと言ったらスナックの店長さんやスタッフの皆さんは全然気付いていないようだったので良かったものの、気をつけるに越したことはないので現在バックルームで待機しているあたしは念入りに桂さんに注意を呼び掛ける。今バックルームには皆出ていって桂さんとあたしの二人しかいないので、再注意のいい機会だ。桂さんに対しても、そして自分に対しても。相変わらず桂さんはさほど危機感を感じていないようだが、反してあたしは警戒心が最高潮だ
「それにしても」
「はい?」
「今日は一段と綺麗だな」
「なっ......」
そんな中で桂さんが口を開いたので、何かと思わず構えてしまったがいきなり桂さんは真顔でこんな言葉を言う。......ああ、構えて良かった。確かにいい着物を借りて化粧をいつもより綺麗めにしてるからなんだと思うけど、でも。や、桂さんにそう言ってもらえて嬉しくない訳がないんだけど......どうしてそうサラリと言えるんだろう?顔を真っ赤にしてると思うけど、構えたからこそそれだけで済んだと思いたい。ありがとうございますと呟いた声がだんだん小さくなってしまったのは許してください
「ちゃん、桂子さん。お客さんが来ましたよー」
「桂子じゃな」
「はーい、今行きまーす」
と、とにかくあたしは最善の努力をすることを誓います
「失礼します」
「あれ?見ない顔だねー」
あたしと桂さんが接客することになったのは中年のおじさん二人で、もうすでに相当お酒を飲んだ形跡があったのに加えて二人とも顔を真っ赤にしていたのでもう酔ってるみたいと心の中で苦笑する。半円形のソファーの真ん中に座っているおじさんを挟むようにあたしと桂さんは別れて座った。あたしは少し間を空けて座ったのだが、すぐに隣のおじさんにその距離を埋められて少々どころか大分驚いてしまった
「君、名前何て言うの?」
「えっと、です」
「ちゃんかー可愛い名前だね。まぁ飲みなよ」
そう言っておじさんは空いてるグラスにお酒をあたしの為に注いでくれたので、普通あたしが注がなきゃいけないのに申し訳ないなぁと思いつつ、ありがとうございますとお礼を言いながらそれを受け取った。その時ちらりと桂さんを見てみると明らか嫌そうな顔をしていたけれど熱く話を語るおじさんはそれに全く気付いていないようだ。桂さんには気の毒としかいいようがないこれど、とりあえずバレた様子はなかったので内心ホッとしてたら、いきなり肩に腕を回された
「いつからここで働いてるの?」
「や、あたしは今日お手伝いで来てるだけなんで」
「そーなの?ちゃんみたいな可愛いコがいるんだったらおじさん毎日来ちゃうんだけどなー」
肩にのせられている手の重さに違和感を感じつつもそう言っておじさんがにこやかな笑みを浮かべるもんだから、とりあえず笑い返しておいたが上手く笑えてるかは分からない。ていうか近いんですけど、距離が。あれ、前もこんな感じだったっけ?ここまで近くなかった気がするけど気のせいかな。......まぁ我慢するしかないよね
「ねぇ」
「ひゃっ」
と思ってたらいきなり耳元で話し掛けられて、驚きのあまり変な声を出してしまった。だけど残念ながら肩に腕を回されているのでおじさんから離れたくても離れられないし、生暖かい息がやけに気色悪いし、だんだん怖くなってきた。それにさらなる追い撃ちをかけたのがおじさんの言葉だ
「ちゃん、今日仕事終わったらおじさんと楽しいところに行かない?」
「え、あ、あたし、この後用事が」
わああああどうしようー!前お手伝いに来た時は全然こういうことを言われたことなかったのでこういう場合どう対処したらいいのか分かんないよ。どうしようかと思ってとりあえずやんわりと断ってみたんだけど......え、本当にこんな時ってどうしたらいいの?
「そんな冷たいこと言わずにさー」
ってええええええちょっと待って下さい。え、嘘、脚触られてる、ていうか撫でられてるような気がするんですけどー!パニックになりながら視線を脚にやればやっぱりおじさんの手があって。そういえばお妙ちゃんがここをお触りパブだと勘違いしてる客がいるから気をつけてって言ってた。で、そういう時は手を......どうするんだっけ?あれ、本当どうやるんだっけ?初めてのことで頭が真っ白.....ヤバイ、どうしよう。ていうかだんだんエスカレートしてる気が...何か気持ち悪くて声が出ないし、泣きそうだ。怖い怖い怖い
「あ、いて!?」
誰か本気で助けてほしいと思った瞬間、おじさんが軽く悲鳴をあげて、あたしの脚を撫でるのを止めた。え、と思っておじさんの方を見ると、涙目になりながら額を押さえていて......え、どうしたんだろう。しかももう一人のおじさんはそれを見て、ケラケラ笑ってるし
「あ、すみません」
無理してるような高い声かつ棒読み口調でそう謝るのは桂さんだった。桂さんが手に持ってるのはシャンパンの瓶で、その口が明らかにこちらの方を向いている。もしかして......
「〜〜〜っ」
「大丈夫かーお前ー。謝ってるんだし許してやれよー」
そんな会話をよそにあたしは桂さんの方を見ると桂さんは小さくあたしに笑ってみせたので、ああやっぱりと確信する。桂さんがあたしのことを助けてくれたんだ、と。具体的に言えばシャンパンを開ける際にわざとコルクをおじさんに当てるように飛ばして。恐怖心がなくなって何だかほっとしたのと桂さんに対しての多大なる感謝と他に色々なものがあたしの中でごった煮されてて、総合的にぶっちゃけさせてもらってもいいですか
「ちゃん、桂子さん。私が代わるから、向こうで店長の仕事を手伝って下さいな」
泣きそうなんです
そんなあたしに対して救いの手を伸ばしてくれたのはお妙ちゃんだった。お妙ちゃんはあたしを立たせて先程まであたしが座っていた場所に座り、それからあたしを見上げるようにしてウインクをした。可愛い、こうやって男の人を落としてきたのかなというのは置いといて......お妙ちゃん、もしかして分かってくれてたのかなと感動していると、いきなり手を掴まれる。もちろんそれは桂さんで、前につんのめりそうになったけど桂さんのペースに合わせていつもより速く足を動かした
「か......け、桂子さん」
その間何故か桂さんは無言で、いや考えてみたら万が一バレたらヤバイからかと納得してあえてあたしも何も言わなかったのだが、桂さんが店長さんがワイン棚に仕入れたばかりのワインを棚にしまってるのを通り過ぎたもんだから、あれお妙ちゃんに店長を手伝ってと言われたのにと不思議に思って桂さんを呼ぼうとしたのは反省してます、はい。......ってあれ?返事がない。もしかして聞こえてないのかな、もう一回呼んだ方がいいのかな、と考えているうちにバックルームの前に着き、桂さんは何も言わずそのドアを開けた。あたしもつれられて部屋の中に入る
「大丈夫だったか?」
桂さんはあたしの手を掴んでいた手をぱっと離して、あたしを座布団の上に座るよう促しながら心配そうに尋ねてくれた。心配かけてしまって申し訳ないなと思いつつ、大丈夫だったか否かと聞かれたら......やっぱり大丈夫じゃないかもしれない。何かそう言われたらさっきの不快や恐怖といったものが蘇ってきて......男の人って怖い。たぶんあのおじさんは酔ってたからあんな感じだっただけかもしれないし、普段はいい人なのかもしれない。それに全員がそういう人じゃないのは分かってるけど、やっぱりあんな人もいるんだと思ったら
「......さっきは怖かった、です」
声が思ったよりも震えて、それが余計桂さんを心配させてしまってることがその時の桂さんの表情で分かってしまった。ああダメだ、あたし。これ以上心配かけちゃいけない
「あ、でも桂さんが助けてくれたんで大丈夫です!本当、ありがとうございました」
へらっと笑って大丈夫なふりだけでもしなきゃと思ったんだけど、我ながら演技がつくづく下手だ。明らかに無理してるような声で、自分の演技力のなさがすごく情けない
......どうしたらいいのかな
「悪かったな、早く助けてやれなくて」
そう思うと自然に目線が下がっていたから気付かなかった、桂さんがすぐ傍に来ていることを。気付けば桂さんに抱きしめられていてすごくすごく驚いたのだが、というかいきなり何とか本気で思ったのはとりあえず置いといて優先順位はそうじゃない。だって桂さんが悪いわけじゃないから
「ち、ちが」
「男が怖いか?」
あたしが否定しようとするのを遮るように桂さんがあたしに問う。え、いきなり何なんだろう。や、確かにさっきみたいな男の人は怖いけど......桂さんは何が言いたいの?
「......俺が怖いか?」
だけどその言葉で思い出してしまった。桂さんは今女装をしていてどこからどう見ても女の人にしか見えないけれどれっきとした『男の人』で。どうして今気付いてしまったのだろう、気付いてしまったら終わりじゃない。あたしを抱きしめている温かい腕だとか、凛とした声だとか桂さんを男の人だと意識してしまったら異常なくらいドキドキしてきた。身体の中の熱が一気に逆流してきてるような感じがして
「......怖くない、です」
でも男の人だと意識しても不思議と怖くはなかった。たぶんそれはあたしがすでに桂さんが優しいことを知っているからだと思われるんだけど...あれ、今ちょっと思ったんだけどそういえば桂さんに触られても全然嫌だと思ったことない。あれれ、何でだろう?
「良かった。これからはお前を守り抜くと誓うからな」
だけどそんな台詞と尚更強く抱きしめられるとそんなことを考えられるわけもなく、答えは依然と闇の中
テキーラに恋をして
( 本当にこんなことを言ってくれる人がいるなんて...! )
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ちなみに落ち着いた後2人は仕事に戻ったと思います(推定)知識不足はごめんなさい。キャバクラにシャンパンは果たして置いてあるのでしょうか?(コラ)とりあえず桂さんに最後の台詞を言わせたかったために書いたんですが、空丘相当痛い子ですよねー(にっこり)