君は最初から僕を驚かせてばかりだったね







LAST CHRISTMAS











12月。肌寒い11月さえ恋しく思えてくるほど寒く、マフラーはもう必需品である季節の真っ最中。地球温暖化と言われているが、こんな寒い冬にそう言われてもピンと来るはずもなく、早く温かい春が来たらいいのにとまだ冬が始まったばかりなのにそう待ち望む人も少なくはないだろう

しかし街は寒さを気にせず、日を重ねるにつれて鮮やかになっていく。特に赤や緑が目立つようになり、最近では駅前の並木には人工的なライトが巻きつけられていて、それが夜になるとキラキラとまるで地上近くの星のように輝きだす

それに心なしか人々も浮かれているような気がしてならない。特に限定すると恋人たちだ。今までよりもさらに幸せオーラが漂っていると言っても過言ではない。まあ、それも仕方がないと言えば頷くことしかできない

一大イベントであるクリスマスはもう一週間後に迫っているというのだから



「....クリスマスがもうそこだというのに何で俺は後輩に奢らされなきゃならねーんだ?」
「桃先輩の練習に付き合ってあげたじゃないっスか」



今日という日の後半に差し掛かっている時間帯の空を見上げながら、桃先輩にマック奢ってもらった帰り道。桃先輩は俺の頭に手を置いて自分は負け犬ですと宣言してるかのように俺にそう言った。何で、と聞かれたから俺はその理由を俺は答えたまで。それなのに桃先輩は独り言だとやけくそになりながら言い、大きなため息をついた。....独り言にしては、随分大きな独り言じゃないッスかと言おうかと思ったけどまた桃先輩が盛大にため息をつくのでやめておいて、その代わりに尋ねる



「部活一筋に見える桃先輩でも彼女とか欲しいんッスか?」
「当たり前じゃねーかよ。俺ももう高校生だぜ?中学んときはクラブ一筋だったけど、さすがに高校生にもなりゃ欲しくもなるっつーの」
「じゃあ作ればいいじゃん。桃先輩モテるんだから」
「簡単に言うなよなー。思ってるほど現実は甘くねえんだ」
「桃先輩、フラ」
「あー、どっかにいい女いねえかなあ。華奢で綺麗な黒髪で大和撫子な感じの女」



桃先輩はもう暗くなりきった空に向かって、どこか遠いところを見ながらそう言った。その時吐き出した息は白く、俺も息を吐いてみたらやはり白いことに変わりはなくて、その色を見ると何だか寒いという実感が妙に沸いてきたので、巻いているマフラーに顔を少しだけ埋め、冷え切った手を片方の手で擦った

.....それにしても桃先輩も彼女とか欲しいと思うんだ。クリスマスを誰かと一緒に過ごしたいと思うんだ。別に思春期の男としておかしなことではないけれども何故か妙な違和感を覚えた。あれだけ部活しかやってない人なのに。高校生ってそういうものなのか?俺は別に彼女とか欲しいとか全然思わないんだけど。俺の方がおかしいのか、これは。それにクリスマスよりも12月24日は自分の誕生日だという認識が大きいし



「じゃあ、また明日な。越前、こっちだろ?」
「はい、お疲れ様ッス」
「明日は朝練遅刻すんなよー」



桃先輩は右で、俺は左に行かなければならない。ということは、つまりここでお別れということで。桃先輩はにやりと笑いながら俺を見て忠告した。とりあえず返事はしとくけど、きっと明日も遅刻するだろうな。そう思いながら、桃先輩が一人鼻歌を歌いながら歩く姿を最後まで見送り、向こうの角を曲がったのを確認してから俺は角を左に曲がった

家まではもうそう遠くはない。俺は家に帰ったら何をしようかとかそう言ったことをぼんやりと考えていた



「「!?」」



そのときだった。人とぶつかったのは。俺は唐突のことで思わず後ろに重心が傾いてしまい、地面に腰をぶつけたのだが、それは相手も俺と同じように地面に腰を打ちつけたようだ。痛いと呟いた高い声からたぶん女だ。男だったらそれはそれで勘弁して欲しい



「.....ごめん、大丈夫?」



自分だけではないと思うがとりあえず自分には非があった。俺は立ち上がり、ぶつかった相手の近くに立ち、見下ろしながらそう問いかける

俺を見上げたのはやはり女だった。街灯のおかげでよく顔が見える。俺を見上げる女はいわゆる『可愛らしい』顔立ちをしていた。日焼けを知らなさそうな綺麗な白い肌、肩より少し長めの真っ直ぐな黒髪は艶やかで、髪と同じ大きくてぱっちりとした黒い瞳、白い肌に映える赤い唇−−−−先ほど桃先輩が言った言葉を少し思い出した

女はこんな寒い日だというのにマフラーや手袋も身に付けておらず、かろうじて着ているカーディガンは冬物だった。その中には病院で患者が着ているような白い服を着ている

その女は最初ぽかんとしていたが、状況を把握し我に返ったようですぐさま立ち上がった。そしていきなり俺の胸倉を掴んで、形の良い唇を動かす



「ねえ、あたしをクリスマスツリーのところまで連れてって!」



大人しそうな外見に反して、結構強気な態度に拍子抜け。今度は俺がぽかんとする番だった。見ず知らずの他人に丁寧に頼むならまだしもいきなり胸倉を掴んで命令するこの女の神経が分からない俺は女の手を自分の胸倉が引き剥がす。その時触れた手は折れそうなほど華奢で冷たかった



「.....クリスマスツリーって商店街の真ん中にあるやつのこと?」



ここからさほど離れていない商店街の真ん中に毎年クリスマスになるとかなりの大きさのクリスマスツリーが聳え立つ。それはここらへんでは結構有名だ。俺がそう聞くと彼女は大きく頷いた



「この道を真っ直ぐ行って、そっから右に曲がって、それから」
「ちょっと待って!お願い、連れて行って...!」
「な?!」



俺は女のお目当ての物クリスマスツリーの場所を教えようとした。すると、俺の言葉を遮り、俺のマフラーを引っ張る。イコール俺の首を絞める。俺を殺す気なのか、この女。さっきから胸倉掴んだり、いきなりマフラーを引っ張ったり....かなり失礼な女だ。少し文句を言ってやろうかと思ってマフラーを元に直しながら彼女を見たのだが、俺が文句を言う前に女が言う



「無理言ってるのは分かってるんだけど.....」



彼女は少し俯いていて何故か寂しそうな表情を浮かべていた。それは俺が簡単に解釈しているだけであって、言葉では形容しがたい。例えて言うのなら......そう、まるで粉雪。手で触れればすぐに跡形もなく消えてしまう、そんな儚さがそこにあったように思えて俺はとてもじゃないけど文句の一つも言えなかった



「.....それは、俺も一緒に来いってこと?」
「うん....ダメ、かな?」



俺はコホンと咳を一つし、意味を確認するため彼女に聞いた。彼女はぱっと顔を上げて俺の様子を伺うかのように俺の顔を覗き込んでくる。......ああ、NOなんてこれもまたとてもじゃないけど言えないや



「別にいいけど」
「本当!ありがとう!すごくいい人だねっ!」



俺がそう言うと、女は俺の手を掴みぶんぶんと勢いよく振った。さっきまでの表情が嘘みたいに嬉しさに満ちていく。ふわっと笑った彼女の笑顔は華やかで、俺の吐いたため息を消してしまった



「あたし、っていうの。貴方の名前は?」







































































































商店街は今からが本番と言ったところで、かなりの人がいた。店はどの店も明るく華やかな雰囲気があり、競っているように思えてくる。いつも見慣れている商店街だがあまりこの時間帯に来たことがないので少し新鮮さを感じた。しかしそんなの感じてる暇はない。何故なら隣にいるはずの彼女がいないということが度々あったからだ

彼女は小柄で、すぐに目を離すと人込みに紛れて、なかなか見つけることができない。それが三度もあったので俺は歩幅を少し狭くし、しっかりと彼女の手を掴んでいた

彼女はというと俺が苦労しているのを分かっていないようだった。きょろきょろ周りを忙しなく見ながら、すごいねーとかあれ何ていうの?とかまるで外に出たことが初めてかのような発言をする。俺はその度はいはいとか聞き流したり、その質問に答えたりしていた

彼女は大物だと思う。あまり人の面倒を見ることを好まない俺に、しかも初対面でここまでやらせるなんて。俺も俺でどうしてこんなことまでしなきゃならないんだろうとか思ってみたりもするけれど彼女が笑う度まあいっかと納得してしまっている



「うわー、すごいー。大きいねー」
「まあね」
「でも、ライトアップされてないよ?」
「ライトアップはクリスマスイブの日の午後7時からその次の日いっぱいまで。...アンタ、もしかして知らなかったの?」
「うん、知らなかった。っていうか、クリスマスイブが今日だと思ってた」
「ああそう大らかな間違い方だね。あと一週間もあるじゃん」



お目当てのクリスマスツリーを目の当たりにして彼女は少し興奮したように俺に告げた。肯定しながら俺もクリスマスツリーを見上げる。去年と見たのとあまり変わっていないが、やはりこれだけ大きいクリスマスツリーは数少ないだろうと思うと自然にすごいなと感じる

これがまたライトアップされたらもっと綺麗なんだろうなと思っている矢先の彼女の疑問。俺は少し拍子抜けしそうになりながらもその疑問に答えた。クリスマスツリーがライトアップするまであと一週間。日に直すとあと七日

彼女は本気で今日がクリスマスイブだと思っていたようでポリポリと頭を指で掻いていた。そして本当に困ったように笑う。何が困ったの、と軽軽しくそう言った自分はすぐ後に後悔することに俺が気づくことはなかった



「今日、死のうと思ったのになー...見てからじゃないと死ねないじゃない」



そう言う彼女は笑っていた。笑って吐く台詞なんかじゃないのに笑っていた。どうしてこんな台詞を笑いながら言えるのかが分からない。そしていきなりそんな重い言葉を聞いた驚きで頭が白紙に近い状態になった

そんな俺に気づいたのだろうか。彼女は俺の方を見てまた笑った。それから同意を求めるように「ねえ?」と頭を傾げたときに彼女の黒髪がさらりと揺れる。彼女は確かにこう言った



「ねえ、また暇だったら会いに来てよ」
「...何で、俺が会いに行かなきゃいけないの?」
「実はあたし、外に出ちゃダメなんだ」
「........は?」



言葉を失う俺に彼女は告げる



「○×病院の2112室、あたしはいつでもそこにいるから」























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