時々見せる寂しそうな表情とか、楽しげな微笑みとか、気づけば君に惹かれてた







LAST CHRISTMAS











「明日とか言わず、毎日会いに来るよ」



そう彼女に告げた俺は、あれから約束通り学校帰りには彼女に会いに行った。部活が終わってからなので少し遅い時間だったが、彼女は快く俺を迎えてくれて、また来てくれたんだね、とそう言って浮かべる彼女の笑顔が好きで。どれくらい好きかというと部活の疲れが忘れてしまうくらい



「ね、見て。今マフラー編んでるんだー。看護婦さんに教えてもらってるの」
「へえ。幅がガタガタに見えるのは俺が疲れてるせいかな」
「ほっといてよ」



毎日会いに来ると宣言してから今日は三日目だ。クリスマスイブは明々後日に迫っている。あれから彼女は特に何も言わなかった。俺も何も聞かなかった。聞けば彼女が笑いながら心の中で泣くのだろうかと考えると聞けなかったというのが正しいかもしれない。きっとこの前ああ言ったときも顔は笑っていたんだけど、心の中では涙を流していたに違いない。俺の勝手な推測だけど

この日、俺がテニスバックを床に下ろすと、彼女はじゃんと今にもすごいでしょと言わんばかりに見せてくれた。それは編みかけのマフラーだった。約30cmというところだろうか。クリスマスといえば思い出す2色のうちの赤色の編みかけのマフラーはお世辞にもキレイだと言えないくらい幅がガタガタだった。編み物のことはよく分からないが、彼女がどこかで何かを間違えたくらいは分かる

俺がそう言うとぷいっと顔を反らして、それからマフラーを編み始めた。その手つきを見ると、慣れている感じがしなくもない。真剣に編む姿は一生懸命で微笑ましく思った



「だけど、暖かそうじゃん」
「でしょ!全部編んだら、リョーマにあげるね」
「.....それは最高の誕生日プレゼントになりそうだよ」
「何その間は!っていうか、これはクリスマスプレゼントだよ」



俺がそう言うと反らしていた顔をこっちに戻して、それから楽しそうに俺にそう言った。彼女の編むマフラーが出来上がったのを想像し、そしてそのマフラーを巻いている自分を想像すると少し面白くなってきた。彼女はそれに気づいたのだろうか、頬を少し膨らませた

俺はクリスマスよりか誕生日を先に思い出すので、つい何も思わず誕生日プレゼントと口走ってしまったが、他人からしたらクリスマスの方が先に思い出されるに決まってる。当然のことながら、彼女は俺の誕生日がクリスマスイブだということを知らない



「12月24日、俺の誕生日なんだけど。まあ、クリスマスでもいいけどね」
「あ、そうなの?じゃあ、誕生日プレゼントにするね」
「....クリスマスでいいって言ったじゃん」



クリスマスプレゼントでいいと言ったのに誕生日プレゼントにしようと言う、人の話など聞く気はさらさらない彼女。そんな彼女はマフラーを見ながらふんわりと微笑んだ



「けど、名前しか知らないイエスキリストの誕生日よりリョーマの誕生日の方が大切だもん」



キリスト教徒がこのセリフを聞いたら、どれだけ怒るだろうか。だけどそんな言葉に俺は満更でもなかった。初めて言われたこのセリフ、嬉しくないはずがない。俺が生まれた日を大切だと言ってくれたことは俺が生まれてきて良かったと言ってもらえてるようなことだから



「.....なんか欲しいものある?」



俺は気づいたらそんな言葉を言っていて。彼女は躊躇いもなくこう答えた



「クリスマスをリョーマと一緒に過ごす特権」
「もっと高望みしてもいいのに」
「え、一緒にいてくれるの?すごく嬉しいー!ありがとう!」



そう言って嬉しそうに彼女が笑うから、彼女が落とした影に気づくことができなかった















































影は光を侵食し、やがて全てを飲み込む




















































「.....ごめん、起こした?」
「ううん、ずっと起きてたから」
「あ、起きなくていいから寝てなよ」



次の日行くと、彼女は目を瞑ってベットに寝ていた。あまりにもその顔色が悪く、嫌な胸騒ぎがし始めたと同時に彼女の目がそっと開き、その胸騒ぎは止んだが、俺がそっと声をかけると、彼女は俺の方に顔を向け、口元を緩めるように笑った。その笑顔は無理をしているようで酷く儚げだったので彼女が起き上がろうとしていたが、俺はそれを止める



「でも、せっかくリョーマが来てくれ」
「いいから。....顔色かなり悪いね」
「平気よ」
「平気な訳ないじゃん。...俺、今日は帰るから」
「それは嫌っ!」



彼女の言葉を遮って俺はテニスバックを床に置きながら、そう言った。近くで見ると尚更彼女の顔色が悪いことに嫌でも気づく。昨日まではどこにでもいるような普通の健康な女の子だったのに、今日の彼女は本当に病人だった。強がるところは変わっていないみたいだけど

彼女は平気と言うが、俺には全く平気そうに見えなかったので今日は彼女は安静に寝てた方がいいと判断し、俺は先ほど置いたテニスバックをまた持とうとした。今度は彼女が俺の行為を止める。振り絞った声に俺はテニスバックを持とうとするのを止め、彼女を見た。彼女は一息をつき、それからいつもの笑顔を取り繕おうとする



「....聞いて。リョーマ。あれから、結構マフラー編むの頑張ったの」
「へえ、どれくらい編めたの?」
「それはリョーマの誕生日になってからのお楽しみだよ」
「何だよ、ソレ」



ふふっと彼女は笑う。その声は力なく弱弱しくて、こんなに元気がない姿は初めて見た。戸惑い、そして心配に思ってしまう。そのためか彼女の話はちゃんと頭に入らなかった。曖昧に返事し、動揺しているのを隠そうとする。....俺が動揺してどうするんだよ、って話だから

その時突然彼女は咳き込みだした。ゴホゴホと苦しそうな表情をし、口を手で抑えている。俺は突然のことで一瞬怯んだが、すぐに彼女の背中を擦り、「大丈夫?」と声をかけた。見れば大丈夫じゃないことは丸分かりなのにそれなのに「大丈夫?」と声をかける馬鹿な自分に嫌気がさしたが、俺にはそれで精一杯だった

しばらくすると彼女の咳が治まりつつあった。彼女は涙目になりながら、「ごめんね、大丈夫だから」と弱弱しくて説得力のない声でそう告げる。俺はただ背中を擦り、「無理しなくていいよ」と言うことくらいしかできない。俺は今の彼女にとって全くの無力だった



「ねえ、リョーマ...」
「何?」
「リョーマの手って温かいね」
「アンタの手が冷たいだけじゃないの?...心が温かい証拠だ」



よく人は言う。手が冷たい人は心が温かい人だと。手を温めるよりも先に心を温め、周りの人々にそれを分け与える。もしそれが迷信とかじゃなくて本当だとしたら、彼女は間違いなく心が温かい証拠だった。だけど少し俺の捉える意味が違うのは彼女のことを知っているから。彼女の温かさを知っているから、手が冷たいから心が温かい人なんじゃなくて、温かい人だからこそ手が冷たいんだと思うんだ

そっと重ねられた冷たい手。俺の手を弱弱しく握ろうとするその手を俺は握り返した



「ねえ....あたし、もうすぐこの世界から旅立っちゃうのかな?」
「何言ってんの。アンタの居場所はここだよ」
「そうだったら、いいのに。そうだったら、どんなに嬉しいか....」
「そうに決まってる。そうに決まってるじゃん!」
「神様って、意地悪だね。あたしが行こうと決意をしたその時に、引き止めるんだ」



天井を通り越して、もっともっと上のほうを見ているような、そんな視線



「神様は残酷だよ。あたしがもっと生きたいと思ったらすぐにあたしを見捨てるんだ」



彼女が見ているのは何か、俺にはさっぱり分からない。しかしそれでも俺に分かるものがあった



「....何で、泣くの?」



それは彼女の頬を伝うもの−−−−−それを『涙』と呼ぶことを



「何でだろ。分かんない。分かんないよ...」



彼女は確かに涙を流していた。その綺麗な涙はシーツに染みをつくっていく。俺には拭い去れない何かがそこに含まれている気がした。俺が指で涙を拭ってあげても彼女の目からは次々に涙が出てくる。そういう風に涙を流すということは泣いているということで、すなわち....上手くいえないや。とにかく彼女は確かに泣いていた

それなのに彼女はまだ笑顔を取り繕おうとしていた



「どうして、涙が止まらないんだろ....?」



彼女は俺へと視線を向けて、ゆっくりと口を開いた。その質問に俺が答えられるわけがなかった。泣いている本人が何故泣いているのか分からないのだから、見ていることしか出来ない俺に分かるはずはない。そんな自分が悔しくて、腹立たしくて....寂しかった

彼女は俺の答えを最初から期待してなかったかのようにまた言葉をぽつりと零す。本当に寂しいのは誰だか俺は今更理解った



「...どうして、神様はあたしをリョーマに会わせてくれたのかな?もう、別れが近づいてるのに」



いつもここに一人。こんな真っ白な無の世界に取り残されて寂しくない人間がどこにいるっていうんだ。そんなのどこにも存在しない。寂しくないはずなんか...ないんだ

俺は彼女の手を握る力を強くしたら、彼女もそれ相応の力を返してくれた。ふっと微かに笑う君が儚く見えるのは、きっと彼女が抱えきれないほどの寂しさを持っているからだろう

....だけど、これとそれとは話が別だ。彼女が一番寂しいのは分かってる。それでも



「そんなこと言うなよ。....俺だって寂しいじゃん」



そんな言葉を聞いて俺だって寂しいんだ



「嘘でもそんな言葉聞きたくないよ。別れ、だなんて。出会ったばかりなのに」
「....リョーマ....」
「俺、神様なんてあんまり信じてないけど、もし本当に神様が俺にアンタと会わせてくれたとしたら...俺とアンタが神様に言う言葉は一緒がいいなと思ってるよ」



正直キリスト教徒じゃないから神の存在だなんて信じてない。まあキリスト教徒っていうのは関係ないかもしれないけど。だけど神様がいたって何もしてくれないから、信じても現実は現実だ。だから信じなくても何も変わらない



「『ありがとう』.....だよね?」



だけど君の言葉は信じるよ。君の言葉を信じるととっても温かい気持ちになれるから



「うん....」



俺がその言葉に肯定すると彼女は今までで一番優しく微笑んでくれた。しかし、それも一瞬だった



「っ...!!」
「大丈夫?!」



彼女は途端に顔を苦痛に歪め、先ほどと同じく苦しそうに咳をし出した。肩で大きく息をし、咳が止んだかと思うとまた咳が出て、苦しそうに息をする。俺の言葉に返事することなどとてもじゃないけど無理そうだった。俺が背中を擦ってやっても、楽になる気配はない

....さっきとは様子が全然違う。俺は直感的にそう思った。なので近くにあったナースコールを押し、「はい、どうかしました?」とナースコールに出てくれた看護婦さんに半分叫ぶようにこう言った



「早く来てください!...早く、早く....!!お願いします!早く来てください!」



看護婦さんが駆けつけるまでの数分間彼女は苦しみ続けていたが、俺の手を離すことはなかった






















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